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祝 辞

AAPPSからのメッセ−ジ

小沼通二

〈AAPPS会長 慶應義塾大学日吉物理学教室 223横浜市港北区日吉4-1-1 e-mail: a00251@cc.hc.keio.ac.jp〉

私たちアジア太平洋物理学会連合(Association of Asia Pacific Physical Societies=AAPPS)の会員のひとつである日本物理学会の50周年にあたり,AAPPSを代表して,ご発展に対してお祝いを申し上げます. 日本物理学会は,第2次世界大戦が日本の敗戦で終結した直後の1946年以来,日本と世界の学界の中で多大な貢献をしてきました.ただこの出発は,日本数学物理学会の分離による日本物理学会と日本数学会の発足であり,日本の物理学者は,1877年以来学会活動を続けてきたのでした.したがって119年間の活動に対するお祝いを述べるのが適切だとも思います.

こう申し上げるのは,われわれAAPPSの活動の歴史と比較して考えるからであります.AAPPSは,1989年に発足しました.したがって今年は7周年ということになります.私たちAAPPSの現状は,日本物理学会にとっての7周年目,すなわち1953年と1884年の状況が混在しているといえるでしょう.

たとえば,私たちは,2年または3年毎にAsia Pacific Physics Conference (APPC)を主催しております.この会議には,毎回日本からも多くの方々が出席しています.この会議は,日本が1953年にInternational Conference on Theoretical Physicsを主催したときに私も含めた日本の若い物理学者たちが受けた刺激と同様な影響を,アジア太平洋地域の若い物理学者たちに与えているようにみえます.別の例をあげれば,私たちは,機関誌として季刊のAAPPS Bulletinを刊行しています.これは,季刊から隔月刊に移ったころの日本物理学会誌に負けることのない水準を維持していると思います.これは自分たちで言っているだけではありません.この地域以外の人たちの中にも,AAPPS Bulletinを手にして,内容と水準を高く評価してくれる人が少なくありません.しかし一方で,私たちの財政状態を見るとたいへんひ弱であって,日本物理学会にとっての1950年代のレベルには全く達していません.おそらくまだ安定した展望が開けていなかった19世紀末の日本の物理と数学の学会の財政状況が今の私たちと似ていたのではないでしょうか.

ただ私たちは,困難のなかでも将来に対する明るい希望を持っています.アジア太平洋地域の物理学は,大いに発展すると信じています.各地で活躍する人たちが増加しています.韓国では,アジア太平洋理論物理学センタ−の設立に向けての準備が,日本も含めた国際的スケ−ルで進んでいます.インドでも,国際基礎研究センタ−の構想が提出され検討されています.放射光研究施設は各国で建設され,さらに準備されています.アジア太平洋地域の国際共同研究プロジェクトもいろいろ進められています.世界の物理学界の中での相対的地位は,今後はるかに向上するでしょう.

ところが率直にいって,アジア太平洋地域の物理学者は,相互の状況をどの程度よく知っているでしょうか.日本の物理学者も含めて,地元であるこの地域の状況よりアメリカやヨ−ロッパの物理学の状況をよく知っている人たちが大部分のように思えます.これはもちろんアメリカやヨ−ロッパの物理学の重要性を反映しています.日本の外から日本を見れば,大きな言語の壁があることも事実です.最近では,日本の物価が極端に高くて,円の強さと相まって,日本を訪問しにくくしていますし,日本の学術雑誌を購読しにくくさせている面もあります.

しかし言語の壁や物価の高さは,日本からアジア太平洋地域を見た場合には,まったく理由になりません.交流や協力を進めるためにはまず相互に知り合うことが出発点です.そこで,(1)AAPPS Bulletinをもっと日本の大学研究機関の図書館で購読していただきたいと思います.個人購読者がもっと増えてもらいたいと思います.(日本物理学会の事務局で扱っています.)またよい原稿を投稿していただきたいと思います.(既に述べたように日本物理学会誌に対応する雑誌です.)(2)APPCに積極的に参加していただきたいと思います.次回は第7回で,1997年8月に北京で開かれます.狭い専門分野の国際会議が主流になっている中で,この会議は物理全体を扱っています.全体会議の招待講演者は,アジア太平洋地域の研究者に限られていません.これまでの会議への日本の出席者の中には,よその分野の最近の発展について聞く機会があったこと,アジア太平洋地域の研究者と知り合う機会があったことを評価する声があります.(3)アジア太平洋地域には優れた研究拠点が増加しています.そこでこの地域の研究機関を,講演・講義・視察などのためにもっと訪問していただきたいと思います.直接でなくても,アメリカやヨ−ロッパに出かける機会に少し時間をとり,足をのばしていただけるのではないでしょうか.(4)日本には,外国の研究者の招待計画が種々あります.これらを利用してもっとアジア太平洋地域の研究者を呼んでいただきたいと思います.

お祝いがお願いになってしまいましたが,これらは全て日本の研究者にとってもプラスになることは間違いないと信じます.