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50年をかえりみる

光物性研究50年史のある断面--局在励起から励起子へ--

豊沢 豊

〈中央大学理工学部物理学教室 112東京都文京区春日1-13-27〉

「光と物質の関わり」は量子論の形成に大きな役割を演じた.物質と熱平衡下の放射場の研究によるPlanck作用量子の発見,それを実体化して光電効果を説明したEinsteinの光量子モデル,水素原子のスペクトル線とBohr模型など,例を挙げれば限りがない.しかし凝縮系を対象とする光物性研究は,原子分光の拡大・発展としての要素を保ちながらも,凝集機構自体にメスを入れるというユニークな役割も自覚することになった.

凝縮系では,原子の最外殻にある価電子が原子間を往き来することによって原子間力が生じる(中間子が核子間でやりとりされることによって核力が生じるように).こうして価電子の運動と原子の配置とは互いに密接に絡み合うが,その中から実現された凝縮系の基底状態は,各原子が周辺から受ける力がバランスし各電子も所を得た静寂の世界であり,その低エネルギー近傍だけを探索しても,バランスの背後に隠された粒子間の激しい力の葛藤など知る由もない.

しかしひとたび光を照射して価電子を励起すると電荷分布や結合状態が(特に非金属では)著しく変わるため,各原子は新たな平衡位置を求めて移動しようとする.この格子緩和のダイナミックスを何よりも雄弁に物語ってくれるのは,励起の吸収スペクトル,緩和後の発光スペクトル,あるいは両者を結び付ける2次光学スペクトルである.基底状態での原子間力の本性は,そのバランスが失われた励起状態での新たな原子配置によって初めて明かるみに出される.

さて電子状態と原子配置とが互いを規定することによって実現したこの2種の電子・格子状態--基底状態と緩和(後の)励起状態(これは一般に複数個ある)--は,まかり間違ってもし後者がより低いエネルギーを持っていればそれが真の基底状態であったはずである,という相互的関係にある.光による電子励起と格子緩和の研究は,幾つかの可能な電子・格子状態の中からなぜ現実に私達の目の前にある物質存在様式が選ばれたのかを教えてくれる.励起状態の研究が基底状態のより深い理解に導く所以である.

主観的見解かも知れないが,戦後50年の我が国における光物性研究を振り返るとき,上記のような一つの流れを見出すことができる.勿論それは,他の幾つかの流れと複雑に絡み,相携えながら発展してきたものであるが,本稿では限られた紙数の中である程度の一貫性を保つために,この一つの流れを中心に述べることをお許し頂きたい.


1. 光物性事始め--固体内局在電子の研究

量子力学の検証としての原子・分子スペクトル解析の役割がほぼ終わったと感じた京大の内田が未開拓の固体分光に転じ,イオン結晶蛍燐光体の研究を始めたのは1935年頃であった.1)その頃ドイツで始められたアルカリハライドの色中心の研究もやがてMott-Gurneyの教科書などを通して日本に紹介された.戦後は多くの実験家・理論家がこれに参入して,固体の分光研究は全盛時代を迎えた.特にF中心は水素原子の固体版という共通の認識があった.陰イオン欠陥の周りに局在した電子の状態を周辺原子群の配置と絡み合わせてどのように求めるかをめぐって,久保の連続電媒質モデル,2)犬井・植村の分子論的手法,3)永宮・小島のWigner-Seitzセル法4)など様々の理論的アプローチがなされ,また上田はF中心から光化学反応でつくられる種々の複合中心の対称性を解明するため,初めて偏光を利用する実験を行った.5)1953年京都で開催された理論物理学国際会議にはMott, Frhlich, Seitz, Bardeen等が出席してこの分野に強いインパクトを与えた.久保等は局在電子励起エネルギーの揺らぎを多フォノン過程で記述し,光スペクトル形状と無放射遷移を論じた.6)

1957年日本物理学会年会固体分光学シンポジウムでの有志懇談の結果,この分野の名称を「光物性」とすることが決まり,内田を長とする光物性研究班の活動が59年から67年まで続いた.その頃関心を集めていたアルカリハライド蛍光体のTl中心やSn中心のA,B,C吸収バンドは,電子状態を同定した菅野の理論によりその位置関係と強度比が説明された.7)その中A及びCバンドが温度に依存する構造を示すことが福田・尾中等により見出され,8)励起状態の格子熱振動によるJahn-Teller分裂として説明された.9)その後,吸収・発光の偏光相関や一軸性および静水圧力効果等の詳細な研究が行われ,Aバンドに対応する緩和励起状態にはtetragonalに歪んだ配置とtrigonalに歪んだ配置があって,AT及びAX発光の始状態となることがわかった(文献10のII3.1.2参照).吸収スペクトル形状が緩和後の姿を予示する系として興味深いが,§4でもやや異なる例を述べる.

不純物が遷移金属または希土類イオンの場合,その不完全殻の電子は上記の電子系よりさらに強く局在しているため,格子振動の影響はあまり及ばず,周辺原子からの静的な結晶場のみを受けるか,高々隣接原子(配位子)にわずかに拡がった電子とみなせる.1954年の田辺・菅野11)に始まる多電子系の結晶場理論や配位子場理論12)は,電子間クーロン,スピン軌道相互作用,結晶場をパラメターとして複雑なスペクトル線の解析・同定を行いつつ,そのパラメター値を第一原理からも求める,という手法で成功を収め,初期のルビー・レーザーの開発にも役立つこととなった.


2. 励起子研究草創の頃--遍歴性と自己束縛

武藤等の提唱により1958年京大基研において短期研究会「励起子」が開催され,その成果はProg. Theor. Phys. のSupplement13)として出版された.全く草分けの時代であった.林(正)がCu2Oで見出した水素原子型スペクトル線14)がWannier型励起子によるものとの認識はその時点では必ずしも全面的合意を得られず,後年海外での実験によって確立した(バンド端禁制型励起子であったため吸収強度が弱く当時の常識ではintrinsicなものと考え難かったのだろう).また戸村はアルカリハライドの励起子帯での光照射によりTl中心が発光するという実験に基づいて,励起子は実際にTl中心まで動いて,そこでエネルギーを引き渡すとの考えを述べ,その後もその立場を貫いた.15)豊沢は光吸収の終状態である励起子のフォノン場での自己エネルギーがスペクトル形状にそのまま映し出されることを指摘し,実験との比較からアルカリハライドでは励起エネルギーの局所的揺らぎが遍歴性によってnarrowingを起こした弱散乱状況にあると結論した.局在電子にはない励起子の遍歴性のあかしを掴むことが当時の関心事であった.しかし1964年にKablerは,アルカリハライドの励起子は正孔と同様に強い格子変形を伴って自己束縛状態に陥ることを実験的に示した.このような強結合状況は,弱散乱とする戸村,豊沢の考えと一見矛盾する.

Landauが提起した自己束縛の概念は,山下・黒沢によりNiOなどの狭いバンドでの熱活性化型電気伝導に適用された.16)しかしFrhlichによれば,普通のイオン結晶で伝導帯電子と相互作用する主役は強い静電場を伴う光学型フォノンである.このフォノンの衣を着た電子--ポーラロン--の実効質量は結合定数の滑らかな増加関数であり,これで上記の強い自己束縛を説明することは困難であった.他方,音響型フォノン場での電子は結合定数がある臨界値を超えるとフォノンの衣が突然厚くなり,実効質量の極めて大きい自己束縛状態になることが見出された.17)相互作用が短距離型であるため,自由遍歴状態(F)と自己束縛状態(S)とが,断熱的にはpotential-barrierで隔てられた二つの局所的安定状態として共存する.励起子は中性であるためフォノンとの相互作用は常に短距離型であり,光で創られた励起子が暫くは弱散乱のF状態にあるが,barrierをトンネルするか熱的に乗り越えた後により安定なS状態に落ち着くと考えれば,上記の矛盾は解消する.1977年に林(哲)等18)及び西村等19)は,Kabler以来知られていたS状態からの発光のほかに,準安定F状態からの共鳴発光線を見出し,その寿命の温度依存性からbarrierの高さも見積もった.那須等20)はF励起子がbarrierをトンネルしてS状態になる遷移速度を計算し,励起子バンドの広い物質ほど束縛に要する格子歪みが大きく遷移速度が小さいことを示した.これはアルカリハライドや希ガス結晶でのF型対S型発光強度比のバンド幅依存性とコンシステントになっている.なお,弱→強結合の不連続的移行と弱→強散乱の連続的移行とは境界が異なり,弱散乱で強結合の物質はこの他にも多い.


3. 混晶の電子状態と格子振動--弱散乱から強散乱まで

1965年頃中井等は,2種のアルカリを混ぜたアルカリハライド混晶の励起子吸収は各成分の個性が平均化されて一つのピークになるが,2種のハロゲンを混ぜた場合は各成分に対応した二つのピークになることを見出し,それぞれの状況を融合型,自己主張型と呼んだ.21)小野寺等は成分原子の差異によるポテンシャルの空間的揺らぎで,粒子が散乱されるための自己エネルギーをコヒーレントポテンシャル近似(CPA)で調べることにより,バンド幅と揺らぎとの大・小関係(弱・強散乱)に応じて融合型または自己主張型になることを示した.22)アルカリに由来する伝導バンドは幅が広いので異なるアルカリを混ぜても融合型に留まるが,ハロゲンに由来する価電子バンドは幅が狭いので異なるハロゲンを混ぜると自己主張が起こると考えて,上記の事実を説明できる.

同様のことが混晶の光学型フォノンにも現れるが,この場合は正負イオンの換算質量が上記ポテンシャルに代わって役割を演じる.村橋・国府田はCuBr-CuI系及びCuCl-CuBr系混晶の光学型縦・横フォノンのRamanスペクトルが,それぞれ融合型及び自己主張型であることを示した.23)また有機分子では種々の分子内位置にある水素原子を重水素原子に置き換えることで分子内振動数の異なる多種の同位分子を作る化学的手法がある.それを用いて,分子内電子励起が混晶中で融合型または自己主張型の励起子スペクトルを示すように同位分子の組み合わせを自在に選ぶという十倉・国府田・中田の実験があり,24)そのスペクトルを住の導入した動的CPA25)法で解析して励起子バンド幅を見積っている.


4. Urbach則と緩和励起子

結晶の純化が進み,スペクトル分解能が高まる中で,種種の絶縁体の吸収・発光スペクトルの精密な測定が積み上げられた.富来等はアルカリハライドの基礎吸収域での反射スペクトルからKramers-Kronig解析により吸収及び誘電率スペクトルの決定版を与えた.26)また神前等は銀ハライド及びその混晶の吸収・発光スペクトルを高分解能で測定して種々の電子的・フォノン的素過程を明らかにし,27)写真感光機構解明の基礎を築いた.これらも含めた極めて多くの絶縁体に共通の経験則として,吸収スペクトル端の低エネルギー側は数桁にもわたり指数関数形(∝exp[−s(E0E )/kBT ])で減衰する(Urbach則)ことが見出されている.

住等およびSchreiber等は格子熱振動で空間的に揺らぐポテンシャルの下での励起子の散乱問題を解くことによりこの経験則を再現することに成功し,指数関数型尾部を瞬間的局在状態に帰した.28)それによると物質sは励起子・格子結合定数に反比例するので,吸収から得られるs値がある臨界値より大か小かで,緩和励起子発光のF型かS型かを予見することができる.*実際これは無機から有機にわたる多くの物質に当てはまることが次々に分かってきた.

上記AgClxBr1−x混晶の間接励起子による吸収端のsxの単調減少関数だが,xが0.45を超える辺りで発光はF型からS型に突然移行し,そのときのsの値は理論から求めた臨界値に極めて近い.松井・水野等によると,有機芳香族結晶の幾種かはsが臨界値以下で,実際S型発光を示すが,臨界値に近いsをもつアントラセン,テトラセン等の発光は加圧でF型からS型に移行する.29)なお武田等は,層状結晶PbI2の吸収・発光スペクトルがともにUrbach則に従い,前者のsと後者のs'とはs'=s−1の関係にあることを見出した.30)これは物質と放射場とが熱平衡にあることを意味する.


5. バンド構造と励起子の内部構造

種々の結晶のバンド構造研究が進む中で,KI結晶の相対論的バンド計算が小野寺等により行われ,31)それに基づきアルカリハライドの励起子電子構造が調べられた.32)スピン軌道相互作用lにより分裂したハロゲン価電子バンドの正孔とアルカリを主成分とする伝導バンドの電子とから成るG点励起子は,電子・正孔間の交換相互作用Dのため入り混じる.基底状態からの双極子遷移が許されたJ=1の2状態は,lDとの競合により,jj結合とLS結合の中間の状態にある.従って励起子吸収線の最初のdoubletの間隔と強度比とから,結晶内でのlDが分かる筈である.実際,アルカリハライドだけでなく類似のバンド端構造を持つ様々の絶縁体で,価電子バンドだけでなく内殻バンドに由来する励起子doubletについてもこのような解析が行われ,多くの知見をもたらした.加藤・Yu・後藤はlが負のCuClと 正のCuBrの混晶を利用して,l/Dのほとんど全領域にわたる融合型励起子線doubletの間隔と強度比の推移を追跡することに成功した.33)

dDはまた別の場面でも姿を現す.Wurtzite型結晶のZnOでは一軸性結晶場のため価電子バンドはA, B, Cの3枚に分裂し,それぞれはKramersdoubletで時間反転対称な摂動では分裂しない.それにも拘らず,c-軸に垂直に掛けた一軸性応力のもとで,A励起子線とB励起子線はそれぞれ二つに分裂することを,国府田・Langerは見出し,これを複合粒子効果と断定した.34)実際秋元・長谷川は,電子・正孔交換相互作用と応力場との結合効果としてこの分裂を説明し,交換エネルギーも見積もった.35)国府田等はまたCuClに一軸性応力をかけると光学的遷移の許された横波励起子と禁じられた縦波励起子が著しく混じり合うことを見出し,これを歪みで誘起された価電子バンドのk-1次項で説明した.36)これらの場合も含め,一様な電場・磁場・応力場などの下での縮退または準縮退の価電子バンド正孔と伝導バンド電子の一体エネルギーを有効角運動量で表し,これに電子・正孔交換相互作用を加えて励起子のエネルギーを求める一般的な処方が張により与えられた. 37)伊藤(稔)等が行った磁気双極子2光子吸収法による3重項励起子エネルギーの直接測定38)により,前記のD及び張等の非等方的交換エネルギーeex39)が精密に決められた.

弱磁場下でZeeman分裂や反磁性シフトを受けたWannier励起子は,強磁場では価電子・伝導両バンドの各Landau準位からの1次元励起子につながると考えられる.その移行の様子が三須等によりCdSで,40)桑原等によりCu2Oで41)詳しく調べられ,大局的にはそうなっている.しかし秋元等,品田等の理論が示すように,弱・強磁場での準位対応は,途中で起こる準位間の組み替えもあって予想される程単純なものではない.42)ZnP2結晶は,価電子バンドの結晶場分裂や電子・正孔結合エネルギーに比しスピン・軌道及び励起子・フォノン相互作用がずっと小さいこともあって,複雑な結晶構造にも拘らずスペクトルとしては単純な一重項及び三重項Wannier励起子線が高次まで観測される数少ない物質であるが,後藤らはこれらの励起子線を高い磁場領域まで追跡し,詳細な理論的解析を行っている.43)

フォノン場での電子・正孔二体問題は松浦等により詳しく調べられたが,特に光学型フォノンの相対及び並進運動への影響として,各粒子のポーラロン効果はポーラロン半径の和より小さい軌道半径をもつ励起子では互いに打ち消し合うため,大きい軌道半径の励起子がポーラロン効果をより強く受け,たとえば1s励起子より2s励起子の方が大きい重心質量をもち,またフォノンサイドバンドも強い.44)アルカリハライドのスペクトル45)はこのような描像で理解できる.フォノン場での励起子内部準位間相互作用として,TlBrでは磁場と共に移動する各励起子線とそれらのLOフォノンサイドバンドとが交差する点でのpinning効果が観測されていることを述べておく.46)

加藤等は強誘電体として知られる分子性結晶NaNO2の吸収・発光スペクトルを詳しく調べ,NO2分子内電子励起が分子内振動と強く結合した多数の振電準位による励起子線の各々に結晶格子振動のフォノン・サイドバンドが付随する状況を明らかにする47)と共に,振電準位間の緩和時間をホットルミネッセンスから見積もった.48)各振電準位に分配された振動子強度が小さいためFrenkel励起子バンドの分散は小さく(分子内フォノンによるポーラロン効果と言い換えてもよい),波数・エネルギーを保存するのは2フォノン以上の散乱になるので,低温ではフォノン散乱以前に発光消滅する.49)これを利用して2次光学過程から励起子バンドの分散も求められた.広いバンドとはひと味違った狭いバンド特有の諸現象が見られる典型物質として注目される.


6. 励起子の格子緩和と欠陥生成

光または粒子線照射により結晶内に格子欠陥ができることはよく知られていた.そのミクロな機構を解明する実験が東北大の上田グループにより始められた.1972年近藤・平井・上田は,KClにパルス電子線照射したときナノ秒以内の短時間にF・H中心対ができることから,電子・正孔対が光学的遷移を経由することなく直接無輻射的に原子移動を起こさせるチャンネルがあると結論した.50)照射で創られた電子・正孔対のうち,まず正孔が自己束縛してVk中心(正規の距離より接近したX2, 但しXはハロゲン原子)となり,そのクーロン場に電子が引きこまれる途中,もし一方のXが[110]方向に動いて相手のXと同じサイトに飛び込めばH中心(格子間負イオンに正孔が捕らえられたもの)ができ,後に残された負イオン欠陥には電子が捕らえられてF中心ができるだろう.51)

伊藤(憲昭)等は,反転対称を破るこのような奇の変形モード(Q2)に対する断熱不安定性によってF・H中心対生成を論じた.52)この断熱不安定性の原因として,Vkに捕らえられた電子の1s, 2p状態間の擬Jahn-Teller効果が提案された.53)実験的には正孔による電子捕獲で自己束縛励起子(反転対称性を持つと当時思われていた)ができるチャンネルもあることを考慮して,Vk中心のX対間の伸縮(Q1,偶モード)運動で両状態が近づいた所でだけ1s断熱曲面のQ2方向負曲率が現れると想定された.

しかしSong等は,このQ2負曲率がQ1の平衡点でも現れる程擬Jahn-Teller効果が大きい,すなわち自己束縛励起子自体が反転対称性を持たないoff-center型であると考えた.54)その数年前長坂が,アルカリハライド中のアルカリ置換Cuイオンのoff-center位置をCuの擬Jahn-Teller効果で説明した55)ことに照らせば,これも十分起こり得ることであった.また住(篤子)は電子・正孔の変形ポテンシャルが逆符号のとき,off-center型の自己束縛励起子が最安定

になり得ることを,連続体モデルによる変分計算で見出していた.56)しかしSong等の議論は幾つかのアルカリハライドでの第一原理計算と,それ以前のENDORや発光の実験データの再検討に基づいていた.また曽田・伊藤が2段励起法によって決定していた自己束縛励起子の各励起状態の分極対称性57)は,off-centerモデルでより理解し易いものとなった.1989年鹿児島で開催された日本物理学会でSongは招待講演を行い,大きなインパクトを与えた.

一方で神野等は,種々のアルカリハライドの発光とその時間分解分光の系統的解析に基づいて純実験的に,自己束縛励起子にはI (on-center), II (weaklyoff-center), III (off-center)の三つのタイプがあることを示した.58)結晶内での隣接ハロゲン間の隙間の大きさをハロゲンの直径で割った‘Rabin-Klick比’の小さいアルカリハライドではIが,中間のものではIIが,大きいものではIIIが現れ,境界の物質ではそれらが共存する.タイプIIIはF・H中心の再隣接対のようなもので,昔,欠陥対生成とみなされていたものは,実はより隔たったF・H対である,と一段ずらせて考えなければならない.谷村等は緩和励起状態でのRaman散乱スペクトルからこの事をさらに裏づけた.59)

エクシマーレーザーでよく知られているように,希ガスは励起状態で初めて2原子分子を形成できる.希ガス結晶においても,原子型及び分子型の自己束縛励起子が共存するが,NeとArでは伝導バンドの底が真空準位より高いため,励起子内電子が周辺格子を押し拡げてバブルをつくることが知られている.末元・神前はNe結晶のパルス電子線照射後の過渡吸収スペクトルを通して,原子型及び分子型自己束縛励起子の周辺にバブルが形成され,平衡の大きさに近づく様子を経時的に観察した.60)温度に依存するその律速過程の活性化エネルギーがバルク結晶の原子空孔の拡散過程のそれに等しいことから,自己束縛励起子の周囲に原子空孔が次々に集まってバブルが形成されると結論した.

TlCl及びTlBrは間接励起子吸収端と直接励起子吸収ピークを持つ.両者とも緩和励起子はF型である.高幣・小林によれば両者の混晶の吸収スペクトルは間接端・直接部ともに融合型であるのに対し,発光スペクトルはCl-richの領域のみでS型になる.61)この事実は,励起子格子相互作用とBr不純物による引力ポテンシャルの協力によってはじめて強い格子緩和と局在化が起こることを意味する.62)CuCl-CuBr混晶のZ12励起子のUrbach則のsは,混晶効果を反映して中間濃度域で著しく減少するが,そこで励起子が局在化することを示唆する実験もあり,63)上記と同様のことが起こっていると考えられる.


7. 2次光学過程--揺らぎと緩和

Heitlerは原子の光吸収と発光とを一続きの2次光学過程--共鳴散乱または共鳴発光--として捉えた.しかし固体内の2次光学過程では吸収と発光の間に様々の揺らぎと緩和が介在し得るため,状況は極めて複雑・多彩になる.1次光とエネルギー的に強い相関を持つ2次光を散乱,相関をほとんど持たない2次光をルミネッセンスと呼ぶのが一般的であろうが,両者の間に明確な線引きができるかどうかは,光物性研究者の重要な関心事である.高河原・花村・久保はstochastic modelでこの問題をしらべ,揺らぎの速さの関数としての両成分の強度比や2次光の時間的挙動などを詳しく調べた.64)NaNO265)やCuCl66)の励起子共鳴2次光学過程の実験は,このような観点からも極めて興味深い結果を提供している.相原はランダム系における時間分解共鳴2次光学スペクトルを考察し,無秩序度が小さいときは短時間域での散乱的成分と長時間域でのルミネッセンス的成分とが明瞭に分離できるが,大きいときは両成分間の移行が連続的に起こることを示した.67)

萱沼は局在電子・格子強結合系について2次光の時間的挙動を調べ,散乱からホットルミネッセンス,通常ルミネッセンスへと推移する姿を浮き彫りにした.68)萱沼はまた,緩和の途中で起こる準位交差について,Landau-Zenerの問題をエネルギー差が揺らぐ場合に一般化して解いている.69)これに関連することだが,F中心の光励起状態2pは格子緩和の途中で2s状態と交差すると考えられている.大倉等はホットルミネッセンスの各部分での偏光相関を測定し,交差後は相関が消失することを見出した.70)この偏光相関については村松等の理論がある.71)阿部72)は,S状態がより安定な励起子・格子系の2次光学過程を動的CPAで調べ,ある程度の運動エネルギーを持つF励起子は,バンド内で緩和してからS状態にトンネルするよりも,直接S状態に緩和する確率が大きいことを示した.これは松井,西村等実験サイドからの問題提起と関連して興味深い課題である.


8. ポラリトン異常

光学型格子振動の縦・横振動数比と静的・動的誘電率比を関係づけるLyddane-Sachs-Tellerの式は黒沢により多モードの場合に拡張された73)が,誘電分散式に交互に現れる極と零点が分極波の横・縦振動数を表すことは電子的分極波についても同じである.この分散式を,誘電体中を伝播する光の振動数対波数の分散曲線に焼き直せば,光波と分極波の連成振動の量子であるポラリトンになる.分極波量子による光吸収・発光は,物質内のポラリトンと外部の光波とを関係づける境界条件に帰着する.分極波に空間分散があるときは同一振動数に対して複数なポラリトンが存在し,既知の電磁的境界条件の他に付加的境界条件(ABC)が必要となる.長年用いられてきた現象論的,経験的ABCを,ミクロな非局所的誘電分散理論と表面物理の問題に掘り下げる研究が張により進められている.74)

さて,光波と分極波の分散曲線が交差する付近での反交差によりポラリトンの上・下の分枝が形成されるが,光学的素過程は光波と分極波が著しく混じり合うこの狭い波数領域で主に起こる.自由励起子の発光は,フォノン散乱により下枝を滑り落ちるポラリトンに光波成分が増えるため結晶表面で光に転換し易くなって起こる.13)住はこのbottleneck領域でのポラリトンの散逸・拡散・消滅のFokker-Planck型方程式を解いて発光スペクトルの形状を求めた.75)

その後の実験技術の進歩は時間分解分光法によるポラリトン・ダイナミクスの追跡を可能にする76)に到った.より新しい岡等のZnTeの実験77)と桑田(現在,五神)等のCuClの実験78)は,ともに各波長での発光強度の時間的推移を調べているが,前者ではそれを立ち上がり成分及び二つの減衰成分に分解し,特に最長成分の減衰時間が励起及び発光波長によらないことから,その成分がポラリトンの定常分布(但し熱非平衡型)を表すことを示した.後者ではポラリトンの空間分布を重視して,平板状単結晶の励起光照射側の面とその反対側の面で発光を測定し,特に強度ピークの時間遅れが各波長でのポラリトンの群速度に対応することを示した.bottleneck近傍でのポラリトンのdissipativeな面とballisticな面とを浮き彫りにした,対照的なアプローチである.

前節の励起子共鳴2次光学過程は,中間状態としてより正確にポラリトン描像を用いる場合には,発光に至る緩和過程まで含めて,ポラリトンの多段フォノン散乱による,bottleneckへのカスケード過程としてとらえる方が一貫性がある.後藤らはCuBrの励起子発光の励起スペクトルがLOフォノンエネルギーを周期とする振動構造を持つことを見出し,入射ポラリトンのnフォノン放出後の状態がbottleneck領域に落ちる場合にだけ,高効率で光に転化すると考えてこれを説明した.79)類似の現象がアルカリ沃化物の2s励起子について西村により観測されている.45)層状結晶HgI2では音響型縦及び横波フォノンによるBrillouin散乱を用いてポラリトン分散と励起子の異方的質量が求められた.80)§5で述べたZnP2については,岡山大グループを中心に2次光学スペクトルの精密な測定が進められ,多数のRaman線と多数の発光線の交差・消長(入射光子エネルギー変化に伴う)の全貌が,ポラリトンの多段フォノン散乱としてほぼ解明されようとしている.81)


9. 巨大振動子強度と高密度励起の世界

水素原子が結合して分子となるように励起子も結合して励起子分子となる.秋元・花村は変分法によりその結合エネルギーを電子・正孔質量比の関数として求め,全領域でそれが正であることを示した.82)間もなく花村はこの励起子分子を2光子吸収で創るための振動子強度が異常に大きいことに気づいた.83)これは,結合エネルギーの小さい励起子分子の波動関数には,振動子強度が集中するK〜0の励起子成分が多く含まれることと,中間状態のエネルギー分母が結合エネルギーの半分で小さいこととの相乗効果による.この指摘は光物性研究者に大きなインパクトを与えた.当時関心の高まりつつあったコヒーレント高密度励起への道が大きく開けたからである.

それ以前,仙台グループではCuClで強光励起による高密度励起子から間接的に励起子分子を作り,それが励起子に戻るときの逆Maxwell型発光スペクトルからも励起子分子の存在を確認していた.84)しかし,今や直接に励起子分子を創る2光子吸収スペクトルが定量的に測定され,その面積や幅の光強度依存性が調べられ,85)幅の原因となる散乱過程の研究が行われるようになった.86)また2光子吸収に続く励起子分子からの発光を,励起子を後に残すRaman散乱と見るべきかルミネッセンスと見るべきか,という§7で述べた問題がここでも論じられている.66)入射・放出光子(励起子)をすべてポラリトン描像で捉えれば,二つのポラリトンの衝突散乱を,ポラリトン分散曲線上でのエネルギー・運動量保存則と両立させて解く問題になる.87)これを利用してCuClの縦波・横波励起子の分散曲線が前例のない広い波数にわたり定められ,また2光子共鳴下でのポラリトンの異常分散も観測されている.88)4波混合の観点から,これらは3次の非線形感受率の様々の現れ方の問題であるが,これは光の偏光方向に関する高階のテンソルとして極めて多くの情報を含む.その視点に立った非線形偏光分光法の開発が桑田によって行われ,励起子及び励起子分子の研究に力を発揮しつつある.89)さてこれらの非線形光学効果の異常性はすべてポラリトン反交差領域での強い連成効果にその源泉を帰することができる.巨大2光子吸収のスペクトルを,光子・分極相互作用の2次摂動論でなく相互作用を予め繰り込んだポラリトン描像で求めたIvanovの式が,精度を高めた実験とよりよく合うことが長沢等により見出されている.90)

高密度励起の当初の一目標が励起子または励起子分子のBose凝縮にあったことは否定できない.しかしGeのような多谷バンド構造では電子・正孔液体が最安定であることが理論的・実験的に確立しているのに対し,励起子分子気体が最安定とされる非縮退バンド構造のCuClでは,多くの報告にも拘らずBose凝縮と自他共に認めるものはまだ見出されていない.様々の探索が現在も続けられている.


10. 低次元系・メゾの世界へ

海部・小松・唐沢等は,層状結晶BiI3の基礎吸収端の低エネルギー側にR, S, Tの順で現れる三つの吸収・発光ピークが,積層欠陥に捉らえられた典型的2次元励起子によるものであることを種々の実験で示した.スペクトル形状の温度依存性・顕著な高密度励起効果が,バンド端で状態密度が有限な2次元励起子系のフォノン及び励起子間散乱によるものとして説明され,91)励起子の面内移動がポラリトン伝播によるものであることが見出された.92)さらに強磁場下でのスペクトルの解析から,この層状結晶の励起子はBiイオン内での遷移に由来することが明らかにされ,R, S, Tに対応する励起子内部構造も同定された.93)石原等はPbI2系層状物質で層間物質の厚さと誘電率を種々に変えた物質群について,バンド構造及び励起子結合エネルギーの2次元性から3次元性への推移を調べている.94)

有効質量近似による励起子の結合エネルギーは,2次元系では3次元系の4倍になることが品田・菅野によって解析的に示されたが,95)1次元系では発散する.勿論現実の結晶では何等かの抑止機能が働く.阿部等は,1次元金属が電子格子相互作用により格子2量体化を起こしてギャップを生じたPeierls半導体について励起子の結合エネルギーと基礎吸収スペクトルを計算し,前者はやはり他の次元よりずっと大きく,また励起子線の振動子強度がバンド間遷移のそれよりはるかに大きいことを示して,観測されたスペクトルの解釈をめぐる従来の論争に決着をつけた.96)同時に計算された3次の非線形感受率スペクトルの特徴的な振舞は,金武等によるポリジアセチレンでの測定結果97)をよく説明する.

谷野・小林は準1次元結晶Wolffram赤塩の骨格をなす(Pt4+--Cl--Pt2+--Cl--)nの鎖がすでにPeierls転移を起こした結果であることに着目して,その共鳴2次発光スペクトルを測定し,それが十数本の等間隔Raman線(鎖内振動モード)とStokesシフトの大きい幅広のバンドとから成ることを見出した.98)後者は自己束縛励起子からの発光であり,そこに至る格子緩和は鎖内の原子移動によることを物語っている.局所的な電荷移動と2量体化解除でPt3+--Cl--Pt3+が形成されたものと考えられる.この状況が鎖の全長に拡がれば1次元金属になるが,逆にこの不安定状態を出発点にとれば,上記のPeierls転移は,パリティの破れた自己束縛電荷移動励起子があらゆる所に自発的に発生して起こる,と動的に捉えることもできる.

那須は1次元金属の不安定化を電子格子相互作用と電子間クーロンの競合の下で論じ,前者が勝てば上記の電荷密度波状態に,後者が勝てばスピン密度波状態になることを,平均場理論に揺らぎを取り入れた近似で示した.99)3次元の同様の系について篠塚がCPAを用いて行った計算では,サイト間電子移動エネルギー,電子格子相互作用,電子間クーロン3者の何れが優勢かにより,それぞれ金属相と上記2相が現れる100)が,その「3重点」と金属相が1次元系では消失するのである(Peierls効果).なおこれと関連して,1次元結晶での自己束縛にはbarrierがないが,石田は自由励起子が連続的に自己束縛状態に陥って行く様子を,並進対称性を壊さないユニークな計算法で示した.101)

有機の電子供与型分子(D)と電子受容型分子(A)の交互積層鎖から成る準1次元電荷移動錯体には,中性相:(D0-A0--)nが低温あるいは加圧下でイオン相:(D+-A--)nに転移するものがある(後者での2量体化は結晶の周期を変えないのでPeierls転移ではない).永長・滝本はこの問題を量子Monte Carlo法で取り扱ったが,その中でこの相転移は鎖に沿って2相間の境界が移動することによって進行することを示唆している.102)実際腰原等は転移温度の直ぐ

下のイオン相を光照射すると,1光子当たり100個以上の単位胞領域が準安定中性相に転移し,かなりの時間存続することを見出した.103)これは両相間の単位胞当たりの(自由)エネルギー差が極めて小さいことによる.光子からのエネルギー転換機構として,光で創られた電荷移動励起子が格子緩和しながら,その電気双極子場により隣接域に同様の双極励起子を次々に誘起創出して行くモデルが提案されている.104)

人工的に低次元系を創り出す手法とそこでの量子化効果の研究は半導体で高度に進展している.105)これはメゾの世界にも重なる.伊藤(正)はサイズを変えたCuCl超微粒子をアルカリハライド中に組みこむ技術を開発し,サイズ選択分光によって励起子及び励起子分子の閉じ込めエネルギー,散乱レート(均一幅)のサイズ依存性を求めている.106)

特に発光レートのサイズ依存性は励起子のコヒーレンス長を考えた花村の理論107)とよく合う.この物質は励起子半径が小さいため,GaAs量子井戸などで見られる電子・正孔の量子閉じ込めと状況が異なる.この状況推移が萱沼により論じられている.108)


11. 将来に向けて

前節のような,ある意味でより単純な系への回帰とは逆向きの流れとして,複雑系の研究も光物性の今後の発展方向の一つであろう.半導体の遠隔ドナー・アクセプター対の再結合発光に対し用いられたようなサイト選択分光法は,基底状態が多数の極小点を持つガラスや生体高分子などの複雑系の構造研究には打ってつけと思われる.櫛田等はサイト選択蛍光分光やホールバーニング分光を駆使して,亜鉛置換ミオグロビンが180Kで液体−ガラス相転移をすることを示すとともに,励起状態の緩和に「階層的に束縛されたダイナミクス」を初めて見出すなど,109)興味深い結果を得ている.他方photo-darkening効果で知られるカルコゲンガラス(SeやAs2Se3など)の光構造変化は,ガラス転移機構を知る一つの鍵としても注目されてきたが,110,111)EXAFSを用いた最近の構造解析は,比較的少数配位数の構造の中に光照射が新たなボンドを創り出してバンドギャップを減少させたことを示唆しており,112)ここでも研究は新たな段階に入ろうとしている.

これとは相補的な発展方向として,比較的単純な系での素過程の超高速時間分解分光研究が挙げられる.相原がいみじくも指摘したように,従来の分光解析で大きな役割を果たしてきた緩和時間という半現象論的な概念がここでは中身をむき出しにされ,揺らぎのダイナミクスが直接に見えてくる.113)時間領域でもミクロな世界に突入しようとしているのである(当然ながら不確定性原理によりエネルギー分解能は制約をうける).電子トラップを含むアルカリハライドにパルス励起で創られた正孔が,よく知られたVk中心(2中心型自己束縛正孔)になるより前に,より低エネルギー側に吸収ピークを持つ別な中心を作ることが,すでにフェムト秒領域での時間分解分光により見出されている.114)

別な次元の発展方向は§9で述べた高密度励起の世界である.光で物質を自在に制御できるその世界は,一方で量子エレクトロニクス分野と相携えて立体的に発展することが期待され,他方では未知の非線形・非平衡状態を探索するロマンがある.飯田等が論じた,コヒーレントに励起した高密度電子・正孔系における共鳴器なしの光双安定性115)など,基礎論としても応用にとっても興味深い問題が多々出てくる可能性がある.

なお光物性研究のもう一つの重要な発展方向として,より短波長の光による内殻電子分光がある.新しい光源としての放射光については別項目で述べられることになっているが,それによる分光学的研究は本稿に含めるべきであったかも知れない.ただ冒頭にも述べたように原子間結合に直接関わる価電子の励起に重点をおいたため,もう一つの重要な分野である赤外分光とともに,ここでは残念ながら割愛させて頂いた.また小ギャップの半導体や金属・磁性体の分光学的研究については,他項目との重複を考えて本稿には含めなかったことをお断わりしておく.

最後に,物質の基底状態と緩和励起子とを,その物質が取りうる安定及び準安定状態として同列に見れば,後者が自発的に増殖して安定化する状況を,その物質の電子的・構造的相転移と見ることができる.光誘起過渡的相転移は,熱平衡における相転移のダイナミカルな側面を照らし出すことになろう.冒頭にも述べたように,光物性研究は,物質存在様式の理解を,基底・励起両状態を含めたより立体的な視点から深めて行く使命を担っているのである.


文 献

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  109. 櫛田孝司:日本物理学会誌 50 (1995) 348.
  110. K. Tanaka: Fundamental Physics of Amorphous Semiconductors, ed. F. Yonezawa (Springer, 1981) p. 104.
  111. K. Kimura, H. Nakata, K. Murayama and T. Ninomiya: Solid State Commun. 40 (1981) 551.
  112. A. V. Kolobov, H. Oyanagi, K. Tanaka and Ke Tanaka: J. Non-cryst. Solids (1996) (印刷中).
  113. M. Aihara: Phys. Rev. B 25 (1982) 53.
  114. 岩井伸一郎,中村新男,谷村克己,伊藤憲昭: 日本物理学会第50回年会講演概要集第2分冊,神奈川大,1995, p. 297.
  115. T. Iida, Y. Hasegawa, H. Higashimura and M. Aihara: Phys. Rev. B 47 (1993) 9328.

*吸収ピークの低エネルギー側の光で励起した直後の励起子は,格子熱振動のひとコマとしての「瞬間的」局在状態にあるが,この動画のその後のコマで一旦は殆どF型励起子になり,さらに格子緩和後にS型になるかF型に留まるかの運命が決まる.このように中間状態として遍歴状態が介在するにも拘らず,吸収のs値と発光型との間にこの相関があることを述べている.§1のTl型中心では励起直後から格子緩和後までが局在状態の断熱ポテンシャル面で直結しているので,吸収・発光の相関はより直接的であった.