社団法人 日本物理学会1998年度科学セミナー

「アインシュタインとボーア
−20世紀の物理学を創った相対論・量子論の新展開−」


期  日
1998年7月19日(日)〜20日(月)
会  場
野口英世記念会館(東京都新宿区大京町26)


プログラム(各講演の間に質疑10分、休憩10分が入ります):

第1日(19日)

9:10〜10:10 量子力学的世界像と古典物理学 江澤 洋(学習院大理)
10:30〜11:30 量子コンピューターと量子暗号 井元信之(NTT基礎研)
11:50〜13:10 昼休み
13:10〜14:10 レーザー冷却された極低温原子集団の量子現象 上田正仁(広大工)
14:30〜15:30 光の速さを測る  霜田光一
15:50〜16:50 素粒子の世界から宇宙へ 二宮正夫(京大基研)
17:10〜18:10 マクロな世界にも現れる量子現象 −トンネル効果− 高木 伸(東北大理)

第2日(20日)

9:00〜10:00 宇宙の始まりと量子力学 佐藤勝彦(東大理)
10:20〜11:20 ミクロな世界の法則と素粒子現象 荒船次郎(東大宇宙線研)
11:40〜13:10 昼休み
13:10〜14:10 アインシュタインと宇宙定数 −定常宇宙からビッグバン宇宙論へ− 池内 了(名大理)
14:30〜15:30 超弦理論と量子重力 −自然界の力を統一する− 川合 光(KEK)
15:50〜16:50 アインシュタイン理論の寵児 −ブラックホール− 前田恵一(早大理工)
17:00〜17:10 まとめ 二宮正夫(京大基研)

内容紹介

 20世紀の物理学は今世紀初頭にアインシュタインによってつくられた相対論と ボーアによって提唱された量子論とを基礎として今日まで発展してきたといっても過言ではありません。本セミナーではその2つの理論を基礎にした現代物理学の最前線を取り上げたいと思います。

 量子力学はミクロな世界の粒子の運動を記述する法則として誕生し構築されてきましたが、その後大きく発展し基礎物理学のみならず様々な分野に浸透しています。今日の私達の生活を支えている多様な科学技術には量子論の原理を応用したものが多数あります。この量子論ではミクロな世界と我々が日常暮らしているマクロな世界がどのようにつながっているのか、という興味深い問題があります。現代物理学における量子論の論点はマクロな世界での量子現象にあらわれます。実際、現在では実験的検証の可能性をはるかに超えるような、極微から超巨まで外挿する理論も量子論の枠内で論じられています。しかしこれを受け入れるのに少しためらいがあるとすれば、それはシュレーディンガーの猫の問題があるからと思われます。これを量子論とマクロな実在論の対立の問題ということができます。実験室で猫を作ることができるか、それらしきものが作れたとしてこの対立に決着をつけるような実験は可能なのか、ということを具体的に調べる候補となる現象として3He-4He過飽物混合液における量子核形成などがあります。

量子力学には不確定性原理と共に離れた系の絡み合いや状態複製の不可能性など日常経験から理解できない不思議な概念が含まれています。ここ10年ほどの間にこれらを単に法則として認識するだけでなく、積極的に情報処理に利用しようという量子コンピューティングや量子暗号の研究が盛んになっています。21世紀には量子論を駆使した新しい情報通信技術が我々の生活を支えるようになるかも知れません。

 また最近ヘリウム以外の中性原子に対してボーズ・アインシュタイン凝縮(BEC)を発生させることやこれまでBECが生じないと考えられてきた引力の相互作用をする7Liについても準安定なBECが生じることがわかってきました。レーザー冷却された中性原子気体の研究は、原子物理学・物性物理学・量子光学のアイデアや技法を融合発展させつつ、量子物理学の最前線として爆発的な勢いで発展しつつあります。 量子論とともに今世紀の物理学の基礎を形作っているのはアインシュタインによって構成された相対論、つまり特殊相対性理論と一般相対性理論です。アインシュタインが相対論を考えるもととなったマイケルソン・モーレーによる光の速さが一定であることを示した実験はその後繰り返し検証されていますが、最近では現代的な科学技術を用いた実験が行われています。

 原子核内部のミクロの世界は量子論を特殊相対論に合致するように発展させた場の量子論を研究手法として調べられてきました。クォークおよび電子、ニュートリノなどのレプトン、さらにグルーオン、Wボソンが物質の構成要素であることがつきとめられ、それらの性質は LEP(電子ー陽電子の衝突型加速器)などの巨大加速器を用いた実験により詳しく調べられてきています。その結果、基本構成要素のダイナミックスを書きあらわす標準理論が予言するトップクォークなどの新粒子が発見されそれらの質量、性質が次々と確かめられてきました。この標準理論は自然界で基本となる四つの力のうち重力を除いた電磁気力、弱い力、強い力の相互作用を記述します。今日では標準理論の検証の精度は精密科学の域に達していると言えます。この標準理論の根底に横たわるのはゲージ原理という対称性をもとにした考え方です。このゲージ原理とともに超対称性というボース粒子とフェルミ粒子を交換する対称性を取り入れることによって標準理論を拡大し、超対称大統一理論が構成されています。これは高エネルギーにおいてスーパー・クォークやスーパー・レプトンなどの多数の未知粒子が存在する ことを予言しますが、現在建設中のLHC(陽子ー陽子の衝突型加速器)や計画中のリニアー・コライダーではこれら新粒子の探索が研究課題の中心となっています。この大統一理論の描く、ミクロな世界は新しい物理をもたらすものと考えられています。

 アインシュタインは特殊相対性理論に続き重力に関する一般相対性理論を発表しましたが、様々な観測による検証によって古典理論としての正しさが認められてきました。量子論として一般相対性理論を量子重力理論に構成し直すことは今なお大きな課題として残されています。一方物質の基本構成要素はクォークなどの点粒子ではなく、弦(ひも)であるという超弦の理論に大きな関心が寄せられています。1960年代末に始まったこの理論は最近革命的ともいわれる新展を見せています。晩年のアインシュタインは統一理論の研究に没頭していましたが、この超弦理論は重力など自然界の4つの基本的な力を全て含む現代の統一理論ということができます。

 また、宇宙論とブラックホールは、アインシュタインの一般相対性理論なしに語ることのできない研究対象です。アインシュタイン理論は我々の常識的な宇宙に対する考え方、永遠・不滅の宇宙の存在を許すものではありませんでした。そのことは、アインシュタインをして宇宙定数という正体不明のものを導入させることになりました。しかし、その後、実際には宇宙はダイナミックに膨張しているということ(ビッグバン宇宙論)が明らかになりました。宇宙が膨張しているということは、当然その始まりがあるということになりますが、宇宙はどのように始まったのでしょうか?物理学者は真剣にそのことを考えはじめ、それを解明するには量子論の考えが必要となることに気付きました。その結果、アンシュタインが図らずも導入してしまった宇宙定数が、真空のエネルギーというかたちで自然に現われてきます。それらは、しかし、宇宙の量子的創成論やインフレーションという宇宙の始まりに関して新しい宇宙観を与えてくれます。また、最近の観測によって次第に明らかにされつつある宇宙大規模構造は、アインシュタインが導入した宇宙定数の存在を示唆しており、それが本当だとすれば、自 然は人類に新たな挑戦状を突きつけたことになります。一方、アインシュタイン方程式の最も簡単な時空解として発見されたブラックホールは、現在その存在がほぼ確実なものとなっています。観測的にはその性質も明らかにされつつあり、宇宙物理学の研究対象として一つの大きな分野をつくっています。さらにその対象は素粒子や超弦理論の分野にまで広がりつつあり、ミクロ物理を見る目としても期待されています。

 今回の科学セミナーでは各領域のフロンティアにおいて研究を強く推し進めている先生方に講師になって頂き、量子論と相対論のなりたちと現代的な意義、最新の応用研究、得られつつある研究の成果、さらにこれから期待される研究の新展開などをわかりやすく解説して頂くように企画しました。このセミナーを通して、聴講される皆様が量子論と相対論の基礎知識を整理し、それらに基礎をおく物性、素粒子、宇宙、および統一理論の研究の最前線に触れて理解を深めて頂けるものと期待しています。

聴講料(テキスト1冊込)(消費税込):

高校生以下 2,000円
大学生(大学院生も含む) 3,000円
会員(協賛学協会会員も含む)  5,000円
一般 7,000円

  テキストは7月15日頃に発送予定です。
  なお、テキストのみご希望の方には、1部1,500円/送料240円(消費税込)で頒布します。

定  員:300名。先着順。(7月6日定員に達したため、締め切らせていただきました。)

申込方法

聴講料を添えて下記申込先までお申し込み下さい。聴講料を添えない申し込みは無効です。聴講料の支払いは現金または郵便小為替に限ります。切手で代用することはできません。申込後の聴講取消は7月10日(金)(下記申込先必着)までとします。

申 込 先

(社)日本物理学会 科学セミナー係
 105-0011 東京都港区芝公園3-5-8 機械振興会館211号室  TEL 03-3434-2671

聴 講 券

聴講申込者には聴講券をお送りします。受講の際は必ずご持参下さい。

主 催

日本物理学会

協 賛(依頼中)

応用物理学会、計測自動制御学会、情報処理学会、精密工学会、大学教育学会、低温工学協会、電気化学会、電気学会、電子情報通信学会、日本応用磁気学会、日本化学会、日本科学史学会、日本科学技術振興財団、日本機械学会、日本希土類学会、日本金属学会、日本結晶学会、日本結晶成長学会、日本原子力学会、日本高圧力学会、日本航空宇宙学会、日本材料学会、日本数学会、日本セラミックス協会、日本鉄鋼協会、日本天文学 会、日本電子機械工業会、日本電子顕微鏡学会、日本複合材料学会、日本物理教育学会、日本分光学会、日本放射光学会、プラズマ・核融合学会、レーザー学会

世 話 人

五神 真(東大工)、二宮正夫(京大基研)、前田恵一(早大理工)

科学セミナー担当理事

二宮正夫(京大基研)

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