社団法人 日本物理学会1999年度科学セミナ−
「生命力のみなもと
−生体エネルギ−への物理的アプロ−チ−」
プログラム(各講演の間に質疑10分、休憩10分が入ります):第1日(19日)
9:10〜10:10 「生命力のみなもと」の背景 美宅成樹(農工大工) 10:30〜11:30 脂質人工膜の形成と観察 八田一郎(名大工) 11:50〜13:10 昼休み 13:10〜14:10 生体膜の弾性力学 宝谷紘一(名大理) 14:30〜15:30 ゲルの形態 田中豊一(マサチューセッツ工科大) 15:50〜16:50 バクテリオロドプシンの光エネルギー変換 神取秀樹(京大理) 第2日(20日)
9:00〜10:00 生体エネルギー変換の戦略 垣谷俊昭(名大理) 10:20〜11:20 生体系の電子移動とプロトン移動 伊藤 繁(基礎生物学研) 11:40〜13:10 昼休み 13:10〜14:10 シトクロムc酸化酵素のはたらき 吉川信也(姫路工大理) 14:30〜15:30 ATP合成酵素の動力学 安田涼平(CREST生命活動のプログラムチーム13)
木下一彦(慶大理工)15:50〜16:50 生命と地球環境システムの安定化をもとめて 垣谷宏子(名古屋商大) 17:00〜17:10 まとめ 美宅成樹(農工大工)
垣谷俊昭(名大理)内容紹介:
地球上のあらゆる生命体は、熱力学が教えるように、その生命活動を維持するために外界から絶え間なくエネルギ−をとりこみ、絶え間なくそれを消費しています。生物圏におけるエネルギ−の流入口は太陽光の捕獲です。植物や光合成細菌は最初にこの光エネルギ−を取り込んで、それを駆動力にして何段階もの化学反応を行い、高い化学エネルギ−を持った物質(ATPや糖など)に変えています。その元をたどれば、地球と生命の誕生以来、地球と生物の永い共進化の歴史があります。その結果、長大な食物連鎖が出来上がり、エネルギ−と物質のみごとにバランスのとれた循環系を成り立たせました。生命力は安定なエネルギ−のながれとバランスのとれた物質循環によって支えられています。しかしながら、活発な人間活動によってこの循環系が崩れようとしているのが現代です。この科学セミナ−「生命力のみなもと」では、太陽からのエネルギ−が生物分子の中に如何に取り入れられて、それによって生物内のエネルギ−変換のプロセスがどのようにしてひき起こされるかを紹介します。この問題はこれまでずっと生物の問題と思われていました。しかしながら、最近の生命科学の爆発的な進歩によって、それが物理の問題であり、化学の問題でもあることが明らかになってきました。生命力のしくみを理解することと現代のエネルギ−・環境問題を地球規模でとらえることは相つながっているものであり、それらが共にこれからの物理学を含む全ての科学の課題として重要になっていくものと思われます。この科学セミナ−は大きく分けて2つのパ−トからなります。第1のパ−トは生体膜の物理化学的性質についてであります。多くのエネルギ−変換のタンパク質複合体は、全て生体膜中に存在しています。従って、これらの分子機械を理解するには、それらのタンパク質が働く場である膜という構造体とタンパク質を含む高分子についての一般的なイメ−ジを持つことが必要です。膜はタンパク質よりはかなり小さな脂質分子が膜上に配列したものです。この脂質膜を主成分とする生体膜は、細胞の内外をはっきり区別するという意味では、丈夫な構造体なのですが、膜の面内方向には液体のような性質を持っている液晶的な興味深い物質です。膜の力学的な性質は細胞自体の性質にも深い関係があります。一方、タンパク質を構成するアミノ酸には電荷を持つもの、水に親和性のあるもの、水に溶けにくいものなど、様々なものがあります。一般に、高分子(およびゲル)は環境によって、非常に広がった状態と縮まった状態の相変化を示します。実際のタンパク質は後者のグロビュ−ル状態に相当します。このような生体膜についての物理化学的性質の最新の研究成果が報告されます。第2のパ−トでは、太陽からの光エネルギ−が生体エネルギ−に変えられて行くプロセスについて報告されます。たとえば、最近、光合成反応中心など光合成にかかわる巨大膜タンパク質複合体の立体構造が明らかにされました。現在ではそれを基にして分子間エネルギ−移動を詳細に実測したり計算できるようになりました。そして、光エネルギ−変換のメカニズムの中で中枢にあるのが、トンネル効果による電子移動という最も物理的な現象であることが分かってきました。反応中心やシトクロム酸化酵素で電子の移動とカップルしてプロトンが生体膜を横断して輸送され、プロトンの濃度勾配を作り、電気化学エネルギ−として安全に蓄積されるプロセスも次第に明らかにされてきました。この電気化学エネルギ−を用いてATP合成酵素でATPがつくられます。最近、ATP合成酵素でATPを合成する現場をとうとう画像でとらえることに成功しました。ATP合成酵素の中をプロトンが走り抜け、電気化学エネルギ−を放出する代わりに、酵素の膜外部分が分子モ−タのごとくダイナミックスに回転する様子がとらえられたのです。これらの研究に対して、日本の生物物理の研究者が大きな貢献をしてきました。 最後に、現代の地球と全生物系に視点をおき、安定なエネルギ−のながれとバランスのとれた物質の循環系を維持するためには、人社会の進化が必要であることが主張されます。講師の人達は、最先端の研究成果をわかりやすく解説することに情熱を持った最高の科学者です。是非、標記セミナ−にご参加下さいますようお願い申し上げます。
聴講料(テキスト1冊込)(消費税込):
高校生以下 2,000円 大学生(大学院生も含む) 3,000円 会員(協賛学協会会員も含む) 5,000円 一般 7,000円 テキストは7月中旬頃に発送予定です。
なお、テキストのみご希望の方には、1部1,500円/送料240円(消費税込)で頒布します。
定 員:300名。先着順。
申込方法:
聴講料を添えて下記申込先までお申し込み下さい。聴講料を添えない申し込みは無効です。聴講料の支払いは現金または郵便小為替に限ります。切手で代用することはできません。申込後の聴講取消は7月8日(木)(下記申込先必着)までとします。申 込 先:
(社)日本物理学会 科学セミナー係
105-0011 東京都港区芝公園3-5-22 タイガービル4F TEL 03-3434-2674聴 講 券:
聴講申込者には聴講券をお送りします。受講の際は必ずご持参下さい。主 催:
日本物理学会協 賛(依頼中):
大学教育学会、応用物理学会、計測自動制御学会、情報処理学会、精密工学会、低温工学協会、電気化学会、電気学会、電子情報通信学会、日本応用磁気学会、日本化学会、日本科学史学会、日本科学技術振興財団、日本機械学会、日本希土類学会、日本金属学会、日本結晶学会、日本結晶成長学会、日本原子力学会、日本高圧力学会、日本航空宇宙学会、日本材料学会、日本数学会、日本生化学会、日本生物物理学会、日本セラミックス協会、日本鉄鋼協会、日本天文学会、日本電子機械工業会、日本電子顕微鏡学会、日本複合材料学会、日本物理教育学会、日本分光学会、日本分子生物学会、日本放射光学会、レ−ザ−学会世 話 人:
美宅成樹(農工大工)、垣谷俊昭(名大理)科学セミナー担当理事:
二宮正夫(京大基研)