日 本 物 理 学 会

2005世界物理年によせて

--講演会「信越地域の中学・高校生に
物理学研究の感動を」;経過報告--



久保謙一 〈2005世界物理年委員会委員) 
[日本物理学会誌 Vol.60 No5(2005)掲載]


  この企画は、2005世界物理年委員会(WYP2005-JPS)で発案され、世界物理年日本委員会のイベントに登録されているものです。現在、実施概要もほぼ決まった段階にあります。ここに、本講演会の趣旨、特徴、世話人の連携の結実、遭遇している困難等について報告し、当委員会の世界物理年への取り組みの一つを紹介します。

本企画の趣旨

この企画は、世界物理年の機会に日本の物理学研究の第一人者の中から数人をお招きして、次世代を担う中学・高校生を対象に、身をもって経験された研究の苦闘と喜び、発見開発の苦悩と楽しさを大いに語っていただき、若者に刺激を与えていただきたいとするものです。大きな研究を成し遂げられた契機となった事柄や、苦しみ抜いて見えてきた成功の光までの努力を語っていただき、若者のこれからに強烈な感動と努力への動機を与えることができればと期待するところです。

また、このような世界物理年といった催しは、往々にして都市部や、宣伝効果、資金と労力の投入の効率的な人口周密地に集中しがちな傾向にあります。この企画では、日頃こういった機会に恵まれることの少ない、都市部から離れた「信越地域の中学・高校生」を対象に、近隣大学の研究・教育関係者、自治体、教育委員会、住民の連携協力の下で行おうとするものです。

ここでいう信越地域は、長野県栄村を中心に日頃生活、教育などのうえで密接な交流関係にある近隣地域を想定しています。

信越地域で開催する経緯

本講演会は、長野県下水内郡栄村の栄中学校で「科学教室」、小学校で「理科教室」を開催してきた筆者の経験を基にして、2005世界物理年委員会で企画されたものです。その発案に至る経過は、物理学会誌2004。11号巻頭言に述べさせていただきました。

本企画の概要

この講演会の講師として、

小柴昌俊先生(東大特別栄誉教授)

中村修二先生(米カ大学サンタバーバラ校教授)

にお願いしたところ、趣旨にご理解・ご賛同をいただきました。講師への依頼状には、次に述べるような事情で開催資金の見通しが全く立っていない状況にあることを率直に述べさせていただきました。にもかかわらず、お二人から即刻の快諾を得ることができました。世話人一同大変に感動した次第です。

講演はお一人1〜2時間程度のトークショウのような内容を考え、映像をお使いいただき、講師によっては演示実験を含むものを計画しています。

開催日程; 2005年 7 月29日(金)

会 場;長野県下水内郡大字栄村 栄村文化会館ホール(250席)

規 模; 1日間、定員230名程度(中学・高校生200名、地域住民30名)

参加者;ホール内定員のほか隣室でのテレビによる視聴を含め、割当て・募集により事前に確定する

開催資金の導入状況

直面している最も困難な問題が、現在でも資金ゼロという事態です。文部科学省平成17年度「サイエンス・パートナーシップ・プログラムSPP」に申請中ですが、結果は4月以降になります。 SPPへの申請の提案は、世話人の一人である小林昭三さん(新潟大)によるもので、栄中学校から栄村教育委員会を通して申請されました。栄村ではこういった活動資金の導入は初めてのものでした。

そこで奮闘していただいたのが、信州大の川村康文さん、矢部正之さんでした。学年末、入試の時期の真只中にもかかわらず、経験を生かして栄村の関係者に申請書作成のいろはから手ほどきをしていただきました。中学校の先生、教育委員会の職員の方も学年末、年度末の超多忙の時期に、よく取り組んでいただいたと感謝しております。大学教員と地域住民のスピーディーな連携が見事に結実し、申請締め切りに間に合わせることができました。

このほか資金導入に当たっては、企業等、地域自治体を含め盛んに努力中です。しかし人口2、600余の山間過疎地では、宣伝効果は望めず企業からの資金導入は困難を極めています。

終わりに

栄村では、世界第一級の研究者の講演会が、こんな山間過疎地で開催できるのか、うちの子供たちに世界的偉業を成し遂げられた研究者から、直接語りかけてもらえるのかと、対応への戸惑いと大きな期待をしています。村では、4メートルの積雪の中で、資金の不足分のいくらかでも援助できないかと、あれこれ思案してくれています。

栄村の全中学生は70数名なので、隣の津南、松之山、飯山と少し広げた地域の生徒たちにも機会を与えたいと、「信越地域」としたところです。大きな立派な講演会の企画ではありませんが、子供たちに研究の苦闘と感動、努力の実ることを伝えたいと考えています。将来、理系で、文系で、地元で、況や家庭で生きていくとしても、心に残るものを与える機会になることを期待して、世話人一同良い講演会になることを願って準備を進めています。

 (2005年3月10日原稿受付)