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日 本 物 理 学 会

2005世界物理年によせて

年次大会の新芽
--Jr.セッション報告--



並 木 雅 俊 〈2005世界物理年委員会委員 高千穂大〉 
[日本物理学会誌 Vol.60 No6(2005)掲載]


  「ふしぎだと思うこと これが科学の芽です よく観察してたしかめ そして考えること これが科学の茎です そして最後になぞがとける これが科学の花です」。朝永振一郎の言葉である。1) 春と秋、定期に開催されている大会は、 物理学研究の「芽」、 「茎」、 それに「花」を伝える場となっている。日本物理学会(本会)が設立した1946年の4月に第1回年会が開催され、今春の年次大会で還暦(第60回)を迎えた。2) この長い歴史をもつ大会に、物理好きの高校生が新鮮な「芽」を披露してくれた。
Jr. セッションは、 本会の世界物理年事業の一環として実施された。3) 本会として初めての試みで、何もかもが手探りの状態であった。日本天文学会はJr.セッションを2000年春季年会から年次開催している。まずは、この先達から‘天文学の楽しさ、 面白さ、 それに奥行きを感じてもらう’ことに、Jr。セッションが有効に機能していることを確認し、またそのシステムを学んだ。また、スーパーサイエンスハイスクール生徒研究発表会(8 月10、 11日)に出向き、高校生の口頭発表それにポスター発表からその手法と内容を知った。
実行委員会は2004年 7 月28日に発足させた。発足の準備として、協力していただくこととなった(財)日本宇宙フォーラムの方々と、実施までのおおまかな日程と準備すべきことを相談した後、領域13の代表および世話人の方々とインフォーマルな会合をもち、それを実行委員会4)とした。
実行委員会では、応募対象者、応募方法、それに応募者全員を発表者とさせるのか、選考するのか等、多くを議論した。対象は高校生を主とするが、高専生3年まで、それに中学生も参加可能とした。大会参加・登壇に関する制度上の問題やどのような発表があるのかの懸念もあって、書類選考をすることになり、申込み締切りを翌年 1 月11日とした。また優秀者を顕彰することとした。
広報を始めてみて、気づいたことがある。高校生らは、通常、問題発見・研究調査の作業を夏休みに行う。本会がJr。セッションを開催することをその前に知らせる必要があった。この種の広報における三種の神器は、チラシ、ポスター、 それに HP であるが、 いずれも間に合わない。そこで、知り合いからの口コミ、高校生主体の大会があれば出掛け、手作りチラシのコピーを配布するなどで工夫し、できる限り対応したが、応募の数は大いに心配であった(三種の神器は、8月末に出来た)。
応募は31件あった。うち30件が高校生、1件だが中学2年生のものもあった。高校の学年別は、ほとんどが共同で行っているため一概には言えないが代表者でみると、3 年 6 名、2 年18名、1年6名であった。応募時の3年生は、発表日の 3 月26日には卒業してしまうため、2年生が多いことは予め想定できた。都道府県別で見ると、北海道3件、 青森 1 件、 福島 1 件、 栃木 2 件、 埼玉 3 件、 東京 3 件、 愛知 2 件、 岐阜 1 件、 京都 2 件、 奈良 2 件、 岡山 8 件、 島根 2 件、山口1件である。参加は無料としたが、会場(千葉県野田市)までの旅費は自己負担である。このため遠方からの応募者は少なく、千葉県を中心とした関東圏が主であろうとの予想していたが、大きくはずれた。
選考委員会は、2005年 1 月19日に行った。手書きはなく、いずれもワープロ原稿で、図、写真、表などが綺麗に挿入された完成品であった。そのうえ、提出物が多かった。要求は、400文字程度の概要と3、000字程度の本文からなるA4用紙3枚に収まるレポートであったが、ほとんどの応募者が参考としてA4サイズ5、 6枚の参考資料を付けていた。なかには、25枚のものも参考資料(論文)を添えたレポートもあった。指導された先生の熱意に敬意を表したい。これらの整理および査読に時間を要した。
ほぼすべてがしっかりとした内容であったため、選考には多くの時間を要した。結局、各委員に各々に点を付けてもらい、その合計点を参考に一つひとつを論じ合うことにした。発表から表彰式までを午後のセッションで行うには15分講演8件が都合よい。侃侃諤諤の議論の末、どうにか8件を選んだが、うち6件は遠方からであった。これでは、学会発表合格としても、辞退の可能性がある。次点を繰り上げとしても、土壇場での辞退となったとしたら、次点者は準備も満足にできないまま発表することになって大変だろうという意見が主流となって9件を合格とした。しかし、それ以外のものも、劣らずよいものである。これをどうにかしなくては、という議論となって、次点も含めた22件をポスターセッション掲示とした。
口頭発表合格者9件は、北海道2、 青森 1、 埼玉 2、 岐阜 1、 京都 1、 島根 1、 山口1と多くが遠方からの参加であったが、いずれも辞退することなく発表してくれた。5) またポスターセッション合格者22件のうち19件がポスター掲示をしてくれた。
第60回(2005年)年次大会 3 日目の 3 月26日午後に実施された。プログラムは、 12時50分に和達三樹会長 (WYP 委員長)による開会の挨拶、13時から15時30分まで9件の発表、市民講演会を挟んで(この時間に審査委員会開催)、16時40分より表彰式である。
発表会場は300名ほど埋まり盛会であった。座長は、前半を小島智恵子さん、後半を佐野雅巳さんが行い、審査は実行委員の他、和達会長、高部英明理事、それに佐藤文隆さんに加わっていただいて行った。いずれもが、とても「芽」とは思えず、「花」のような見事な発表であった。このためか、審査員も、聴講者も、高校生による講演であることを忘れて、専門的な質問もいくつかでた。
発表の中から、大賞(1件)、優秀賞(2件)、奨励賞(6件)を本会から、特別賞 (1 件) を世界物理年日本委員会から贈った。
大賞は、「水によってタイル間に生じる力:光触媒を使うとくっつく力は強くなる」を発表した三滝雅俊くん(立命館高校)であった。‘光触媒は表面に光を当てることにより親水性が向上する’ことを知り、それを確かめることが三滝くんの動機であった。‘親水性が高いほどくっつく力が強くなる’ことに気づいたが、これを測定する装置が高価であるため、それを自作の装置で行った。定量的な議論もしっかりしていて、聴講者から驚きの声が聞こえた(アンケート結果でも最も評価が高かった)。
優秀賞は、『ファインマン物理学』 の記述では説明できないこともあることを指摘した「偏光板とポリプロピレンによる着色現象に関する考察」(南茅部高校、 代表・田口里菜さん)、 4 mの軌道を磁気浮上して走行するトラックを製作してその運動を解析した「直流リニアモーターカーの走行における物理的考察」 (岩国高校、 代表・宮原悠輔くん)、そして特別賞は、クントの実験で発泡ビーズの大きさを変えて測定してみる場合の考察をした「音波による気柱内振動実験」 (松江東高校、 代表・中嶋亮輔くん)が受賞した。6)
全体を通じて、聴講者を飽きさせない素晴らしいセッションであった。アンケートの中には、研究者の発表を思い浮かべると高校生の発表が如何にうまいかよくわかった、と書かれたものもあった。世界物理年事業という1回限りではなく、これからも続けてほしいという声は、引率された先生やアンケートに見られた。また、終了後に頂戴した多くのメールにもあった。次年度実施するかどうかは、今後の議論に期待したいが、夏休み前には決めなくてはならない。
最後ではあるが、大会実行委員でもあった春山さんには会場のことでお世話になった。また終始共に活動してくれた日本宇宙フォーラムの武石みゆきさん、それに本会事務局の渋谷聡さんに心から感謝する。

1) 朝永が京都市青少年科学センターのために書いた色紙の文である。
2) 前身の東京数学会社の設立は1877年 9 月である。その集会から数えれば129回目となる。
3) 並木雅俊:日本物理学会誌59 (2004) 855。
4) 実行委員会:小島智恵子(領域13領域代表(59期)、 日大商)、 佐藤 実 (物理教育分科世話人、 東海大理)、 岸沢真一 (物理教育分科世話人、越谷北高)、鈴木 亨(物理教育分科、筑波大付高)、 加納 誠 (環境物理分科、 東理大理)、佐野雅巳(青少年対象の科学賞審査経験者、 本会理事、 東大理)、 大野栄三(領域13領域代表(60期)、 北大教育)、 春山修身(年次大会実行委員、 東理大理工)、 並木雅俊(本会世界物理年委員会、世界物理年日本委員会)。
5) 遠方からの発表者は何らかの援助を受けていた。3年生の発表合格者が、すでに卒業をしてしまったため補助が受けられず、1年生が代わって発表をした、 ということもあった。
6) 奨励賞は、「減衰振動」(慶応義塾志木高校)、「青森県のヤマセについて」(青森高校)、「偏光版によるセロファンの発色現象」(札幌北高校)、 「パラフィンブロックにおける電波の全反射についての考察」(岐山高校)、「音波による気柱内振動実験」(松江東高校)、それに「リフターの研究」(早稲田大学本庄高校)であった。また、ポスター賞の受賞は、「ばねと糸から構成された振り子の振動についての研究」(札幌北高校)、「万有引力定数の測定と逆2乗の法則の実証」(宇都宮高校)、「原子核の大きさを求める」(一宮高校)、「流星と宇宙塵の関連性の研究」(岡山一宮高校)、「水面上のボールの動きに関する研究」(芝高校)であった。
(2005年4月14日原稿受付)
図1 発表のようす。トップバッターの慶応義塾志木高校。
図2 発表のようす。チームワークをアピールした南茅部高校。
図3 和達会長より大賞の賞状を贈られる三滝くん。三滝くんのモットーは、「できる限り自分で」である。装置も自作、現象の解明も可能な限り自分で行った。
図4 表彰式が終わって集合写真。高校生の明るい笑顔が見られる。 前列中央は和達会長。前列右端は佐野さん、その後ろは小島さん。前列左から4人目が筆者。




 
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