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日 本 物 理 学 会

2005世界物理年によせて
--講演会「信越地域の中学・高校生に
物理学研究の感動を」を終了して--




久 保 謙 一 〈2005世界物理年委員会委員〉

[日本物理学会誌 Vol.60 No10(2005)掲載]


  2005世界物理年委員会で企画され、世界物理年日本委員会のイベントに登録の上記講演会は、7 月29日に開催されました。
1) 講演会の趣旨
この講演会は世界物理年の機会に、日本の物理学研究者に自ら体験された研究の苦闘と成就の喜び、何が研究を敢行する動機となったかを、次世代を担う中学・高校生に大いに語っていただき、彼ら自身の場合に引きつけて考える機会を与えたいとするものでした。
また、世界物理年といった催しは、往々にして都市に集中しがちな傾向にあります。この企画では、日頃こういった機会に恵まれることの少ない、過疎地の中学・高校生を対象に、近隣大学、学校、自治体、教育委員会、住民の連携協力の下で行うものでした。講演会は、長野県下水内郡栄村で行われました。
実施された概要
講師、テーマは次の通り。小柴昌俊先生(東大特別栄誉教授)「ニュートリノ」、 中村修二先生 (米カ大サンタバーバラ校教授)「青色発光ダイオード研究開発の苦闘と感動-なにが大切か」。後者では、十数名のTA支援の下、参加者全員でダイオードの実験も行いました。
特色と成果
講演会の特徴の一つは、生徒が進行係を担当したことです。関係中学校では講演者についての学習が事前に行われ、生徒自身を対象に講演会が行われるという自覚が、会場の雰囲気をつくり出しました。生徒たちは大先生を目の前にしても、臆せず堂々と進行を行い、経歴を紹介し質問し、お礼の言葉を述べました。この地で開催されたことへの驚き、講演会の日を待ち望んでいた気持ちがよく伝わり、講師も終始にこやかでした。生徒達は、大きな達成感と自信をもてたことと思います。
二つ目は、質問が時間内に終わらないほど多かったことです。生徒たちは遠慮なく挙手をして質問し、中には単刀直入で荒削りの質問もありましたが、講師はやさしく内容を広げてお答えくださいました。両講師とも長い道のりの徒歩通学の経験があり生徒の共感をよぶなど、講演では言及されなかった体験や考え方がよく伝わり、この講演会をより充実したものにしました。
都市圏ではなく過疎地で開催されたのも、特徴の一つでした。講演会は、上記各者でつくる組織委員会が主催し、その中に幹事会、栄村に運営委員会をつくり実務に当たりました。講演会が実現できたのは、講師ご両人の賛同、理解があってのことはもちろんですが、よし、やるぞと燃えて、着実な計画性と実行力を発揮して頂いた、栄村の皆さん方の、すごいとしか言いようのない力の賜物でした。この貴重な経験は、日頃のお仕事に、地域起こしに、新しい発想の実現に生かされていくことでしょう。またそれは子供たちにも引き継がれていくと思います。
終わりに
好きなこと、これをやりたいという目標をもつことの大切さを、お二人とも述べられました。子供たちに伝えたいと願った研究の苦闘と、努力の実ることへの感動は、子供たちの脳裏にしっかりと受け止められたのではないかと思います。将来、理系に限らず、文系で、地元で、家庭で生きていく彼らに、心に残るものを与える機会になったのではないでしょうか。世話人一同、こうした期待と確信を抱いて、充実した気持ちで散会しました。
暑い中、山谷を車で1時間もかけておいで頂いた両講師、開催にご協力ご尽力頂いた自治体、大学、教育関係者、皆さんに篤く感謝いたします。
参考文献
1)経過は、 日本物理学会誌59 (2004) 316、 60(2005) 336参照。
(2005年8月11日原稿受付




 
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