日 本 物 理 学 会

世界物理年に向けての動き

北 原 和 夫 [国際基督教大 前会長、学術会議会員、物理学研究連絡委員会委員長  e-mail: ]

[日本物理学会誌 Vol.59 No.4(2004)掲載]


IUPAP(国際純正応用物理学連合)では、 2005年を世界物理年(World Year of Physics, 以下WYP2005と略記)として、各国の物理学会に地域的な企画をするように促しています。また世界的な企画と情報交換のために、IUPAP は Steering Committee を結成し、日本からは潮田会長が委員となっています。2005年は、皆さんご存知のように、アインシュタインが光量子説、特殊相対性理論、ブラウン運動の理論という三つの革命的な論文を発表した1905年から百年を経たことを記念する年です。

WYP2005の目的は、物理学に対する一般の人々の意識(awareness)を高めることです。WYP2005の公式のウェブページには、次のような呼びかけがなされています。「物理学そのものと日常生活における物理学の重要性に対する一般の意識が薄れてきていますので、国際的な物理学コミュニティは、物理学についての見通しと確信とを、政治家や一般大衆に伝えるべく行動を起こさなければなりません。物理学は科学技術の発展の中で重要な役割を果たしてきただけでなく、社会そのものに対しても大きなインパクトをもつものです。このことは、物理学者にとっては、当然のことかもしれませんが、万民にとって必ずしも明らかではありません。21世紀に入った現在、物理学が他の科学に寄与することによってこそ、エネルギー生産、環境保全、公衆衛生などのグローバルな課題が解決されるのです。」

昨年7月6-9日グラーツ(オーストリア)で22カ国の物理学会の代表が集まりました。当時まだ日本物理学会ではWYP2005については動き出していませんでしたので、世界の状況を知る目的で、私が日本物理学会から派遣されました。グラーツの会議では各国の物理学の普及活動が報告されましたが、WYP2005に向けた特別な企画についてはまだアイデアの段階のように見受けられました。まず、グラーツで決まったことは、ユネスコに対して2005年を世界物理年として正式に決めるように要請することです。そして、今後国際的な企画として検討すべき項目とその担当者を決めました。国際的企画として、「物理学が世界を照らす」「物理学の才能をもつ 2,005 人」「物理学移動展示館」「物理学の遊び」「物理学小説」があります。第一の企画は、世界中をレーザー光のリレーで結ぼうというものです。第二の企画は、世界中から物理のできる2,005人の子供を選んで世界大会のようなところに呼んだらどうか、というものです。第三の企画は、移動型の物理学の展示を行うというもので、実は、欧米では実際にそのようなものがあるそうです。第四の企画は、児童や幼児を対象として、科学を楽しめるような玩具やイベントを企画するものです。第五は、物理学者が物理の面白さを知らせるような物語を書くというものです。例えば、科学者について、科学研究について、物理現象について、発見についての物語であってよい。これを物理学者のボランティアで各国の言語に翻訳し、ウェブに載せて世界中の子供あるいは学生の投票によって最高傑作の物語を選びます。

これらの企画は、3月19-21日にモントリオールで開催される第二回準備会でさらに実現に向けて詰めることになりました。

日本物理学会の理事会には「2005世界物理年委員会(WYP2005-JPS)」(委員長・和達三樹副会長)が設置されました。また、日本学術会議物理学研究連絡委員会にもWYP2005ワーキンググループ(主査・並木雅俊)が設置され、相互に連絡を取り合いながら、企画を練っている段階です。一つのアイデアとして、1905年から100年間の物理学の進展を要約し、WYP2005の意義を解説する一般向けのパンフレットを作成することなどが考えられます。

科学に対する意識(awareness)を高めることについては、現在日本学術会議でも重要課題として位置づけられ、活動方針の中にも、「社会のための科学」、「社会の中の科学」の重要性が謳われています。科学教育研究連絡委員会(委員長・木村捨雄)では「“科学のための科学” を基盤とした “社会のための科学” への新世紀の科学教育」というシンポジウムを3月16日に予定していますし、「理科離れ問題特別委員会」(委員長・北原和夫)では、教育、マスコミ、政策も含めて、科学が社会から理解され、信頼され、支持されていくための道筋を明らかにして、日本学術会議の行動計画を立てることを目標としています。一方、文部科学省も、「科学技術・理科大好きプラン」と「国民の科学技術に関する理解の増進」を柱とする政策を進めています。学協会、日本学術会議、行政が協力しあいながら、科学に対する一般の意識を高めていくことが重要であり、2005年はその好機であると思います。科学的知識と技術に基礎をおく、安全・安心・信頼の世界が築かれていくことを願います。

学会の皆さん方の中でも、日常さまざまな試みをされておられる方が多いと思いますが、世界物理年を契機にして、 そのような企画・試みの間の交流を深め、 世界物理年の行事と結び付けることができれば、より一層大きな流れが作れると考えます。会員の皆さんのアイデアや取り組みの情報をお寄せください。
(2004年2月3日原稿受付)


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