概要

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日本物理学会について

日本物理学会は、国内外の物理学の研究者・教育者・技術者・学生など約15,000名を会員として擁する学術団体です。会員の研究交流の機会や国内外に研究成果を発表する場を提供しています。また会員の研究・教育上の便宜をはかり、次世代を担う人材育成にも取り組み、さらには社会に向けて物理学に関する各種情報を発信し、もって我が国の学術、産業および社会の発展と公益の増進に貢献することを目的として、さまざまな活動を行っています。2023年現在で会員の約64%が大学(うち16%が学生)、11%が公的研究機関、9%が民間企業に所属しています。

本会の発足は1877年に遡り、数学を含む「東京数学会社」(のちに東京数学物理学会)として、自然科学の学会として日本で最初に生まれました。ドイツ物理学会が1845年創立、アメリカ物理学会が1899年創立ですから、その先見性は誇るべきものです。数物学会誌をVol.4(1888-1891)で欧文論文誌化したように、発足当初から世界を見据えた学術研究と我が国の学問、科学の発展を通じて、近代日本の成立に大きな寄与をしました。戦後、数物学会を解散し、1946年に日本物理学会が設立されて新しいスタートを切りました。戦前の制限された条件の中でも世界をリードする研究を続けた結果、戦後の復興期には湯川秀樹と朝永振一郎の2人のノーベル物理学賞受賞によって国民の中に理科ブームを生み出しました。我が国がその後発展する礎を築くにあたり、日本物理学会が果たした役割には大きなものがあると言えます。

本会は、世界の物理学界に対する貢献も大きく、欧米に並ぶ学術拠点として世界の物理研究に広く影響を与えつつ、国内外に活動を展開してきました。本会は、アメリカ物理学会、韓国物理学会、ドイツ物理学会など世界の多くの物理学会と相互協定を結び、互いの会員が同等の資格で活動に参加できるようにしています。また、近年、急速な経済発展を遂げているアジア諸国が学術的にも台頭する中、日本物理学会に寄せられる世界からの期待はますます高まっています。1989年に設立されたアジア太平洋物理学会連合(the Association of Asia Pacific Physical Societies, AAPPS)では、本会は設立当初から主導的な役割を演じるメンバー組織として、域内の物理学の振興に向けて国際協力を推進しています。日本物理学会はまた、日本学術会議や国際純粋・応用物理学連合(International Union of Pure and Applied Physics, IUPAP)などの国内外の関係団体・機関との交流や働きかけをはかり、物理学を中心とする科学技術の進歩・発展のために重要な役割を果たしています。

本会は、日本物理学会誌(和文、月刊)を発行して、ますます専門化する物理学界の情勢を分野の壁を超えて会員にわかりやすく紹介しています。また、英文論文誌JPSJ (Journal of the Physical Society of Japan) と PTEP (Progress of Theoretical and Experimental Physics) を月刊で、国際会議録専用論文誌としてJPS Conference Proceedingsを不定期で刊行し、国内外から投稿された物理学の論文を広く世界に発信しています。また、掲載論文の中から編集部の推薦に基づいて論文を選び、周辺分野や他分野の研究者向けに平易な解説記事を作成し、JPS Hot TopicsJPSJ News and Commentsで紹介しています。さらに、物理教育に関する情報交換のための「大学の物理教育」誌(年3回刊行)も定期的に刊行しています。

毎年春と秋に年次大会・秋季(春季)大会として学術講演大会を開催し、研究発表ならびに討論・交流の場を提供しています。春、秋ともに5,000人程度の会員が参加します。また、大会期間中に地元の一般市民向けに開催する市民科学講演会では、そのときどきの話題となるテーマをとりあげ、物理学の基礎から最近の成果に至るまでわかりやすく紹介する啓発活動を行っています。また、中等教育関係者向けの物理教育シンポジウムを毎年開催し、中学・高校での教育課題や大学教育への接続に関する諸問題を議論する場を提供しています。

物理学を通じた社会・教育への連携活動も学会の重要な役割です。上述の大会期間中に開催される市民科学講演会のほか、青少年及び一般社会人を対象とする公開講座やオンライン物理講話、小中学生を対象とする自然の不思議―物理教室など、学生・生徒や市民の方々に物理学をわかりやすく伝え、興味をもっていただくための種々の活動を行っています。Jr.セッションでは、多くの中高校生が自主的に行った課題研究の成果発表を行い、物理学者の質問やコメントに触れて大きな刺激を受けています。また、会友制度を作り、物理学をはじめとする自然科学に興味をもつ中高校生や一般市民に、基礎から最先端の研究の情報を伝えることによって科学リテラシーの向上に寄与しています。また、物理オリンピック高校物理の授業に役立つ基本実験講習会など、他団体が主催する事業にも継続的に支援して、物理学の啓発活動を行っています。

本会は、ダイバーシティ推進に積極的に取り組んでいます。男女共同参画活動だけにとどまらず、日本語を十分に解さない外国人会員にも配慮した環境を整える努力も続けています。また、次世代人材育成プロジェクトの一環として、学生会員や若手会員のキャリア形成支援のため、産業界と大学院生・研究者をつなぐキャリア支援イベントを開催しています。上述のJr. セッションはいくつかの協賛企業から支援を受けて開催されており、産業技術と物理学との密接なつながりを中高校生に示す良い機会となっています。日本物理学会が科学技術人材のキャリア形成支援に取り組む意義は、単に若い人材の活躍の場を拓き、有能な若手に多様な職業領域へ進出するための支援を行う、ということにとどまりません。この事業に学会として自ら取り組むことによって、物理学の研究で培われた種々の実力やスキルをより多様な分野で発揮し、より豊かな未来会のあり方を探ることへとつなげていければと考えています。