JPSJ注目論文

JPSJ 2008年1月号の注目論文

「巨大な光方向二色性をもつ物質が発見される」

東北大学有馬孝尚教授の研究グループは、メタホウ酸銅(化学組成式CuB2O4)の結晶に光を通す際、光の進む向きを反転させるとその吸収量が3倍も異なることを見出した。
ある特殊な原子の並び方をもつ結晶が、さらに磁石のような性質を併せ持ったときに限って出現する、このような現象は光の「方向二色性」として知られていたが、今回発見された「方向二色性」はこれまでに調べられた結晶のものより桁違いに大きく、光スイッチなどへの新たな光デバイスへ繋がる可能性の高い発見として研究者の注目を集めている。


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「中身は半金属、表面はスピン偏極した高密度金属 ~ビスマス超薄膜の不思議~」

半金属ビスマス(Bi)は、微量な不純物やわずかな磁場を加えただけで大きな物性変化を示すため、アクロバティックメタルとも呼ばれている。わが国の物質・材料研究機構、および、ドイツ、スペイン、ロシアの研究機関の研究者からなる国際的な研究グループは、ナノスケールBi超薄膜の電子状態を走査トンネル顕微鏡を用いて測定することに初めて成功し、その表面にスピン偏極(磁性)を伴う金属状態が出現していることを明らかにした。スピントロニクスなどの材料としてのナノスケールBiの応用への展開が大いに期待され、研究者の注目を集めている。


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「ナノ空間中ヘリウムの局在ボース・アインシュタイン凝縮」

「ボース・アインシュタイン凝縮と磁性体の臨界現象」

両注目論文のタイトルに共通するボース・アインシュタイン凝縮(BEC)は、ヘリウム(4He)などのボース粒子の集団が示す、摩擦なしの流れ(超流動)を伴う巨視的な量子力学的現象であり、物性物理、統計物理の最も基本的な概念の一つである。
論文「ナノ空間中ヘリウムの局在ボース・アインシュタイン凝縮」では、慶應義塾大学白浜圭也准教授の研究グループが、直径2.5 nmの細孔がつながった多孔質ガラスの中に閉じ込められた4He の固体相・常流動相・超流動相間の、圧力-温度空間における境界(相図)を決定し、特に、超流動相の高温側に隣接する領域に、細孔径程度のサイズの局所的なBEC状態が多数生じているものの、全体としては一つの巨視的な量子力学的状態になり切れていないという状態、「局在BEC状態」を見出した。
論文「ボース・アインシュタイン凝縮と磁性体の臨界現象」では、東京工業大学、東京大学、サクレーCEA研究所(仏)の研究者からなる研究グループが、そのスピン一重項と三重項間にエネルギーギャップが存在するスピンダイマー磁性体TlCuCl3の、磁場に誘起される相転移現象に関して詳細な実験を行い、その結果がBEC描像 --- 磁気的励起「マグノン」がボース粒子、磁場誘起秩序状態がBEC状態に対応 --- で見事に記述されることを検証した。
両論文は、それぞれBECの多様性、普遍性を示す結果として研究者の注目を集めている。


「ナノ空間中ヘリウムの局在ボース・アインシュタイン凝縮」
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「ボース・アインシュタイン凝縮と磁性体の臨界現象」
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