JPSJ 2008年10月号の注目論文
「新しい電子ドープ型鉄系高温超伝導体の特異な電子状態伝導」
銅酸化物高温超伝導体では銅原子を亜鉛原子などで置換すると局在磁気モーメントが発現する。McMaster大学(カナダ)の今井氏を中心とするカナダ・米国の共同研究グループは、同様な置換効果(鉄原子をコバルト原子で置換)を鉄系新超伝導体BaFe1.8Co0.2As2において調べ、置換によって局在磁気モーメントは発現しないことを明らかにした。電子相関が強い両超伝導体の超伝導メカニズムの相違を探る重要な手がかりとなる結果として、研究者の強い注目を集めている。
「鉄系高温超伝導体LaFeAsO1-xFx の磁気秩序と超伝導の競合関係の直接観測に成功」
京都大学原子炉実験所の北尾・瀬戸両氏を中心とした研究グループは、磁性や電子状態などのミクロな情報を得るのに最も強力なメスバウアー効果を用いて、LaFeAsO1-xFx系では、超伝導にならないx=0の母物質では鉄原子が磁気モーメントをもつのに対して、超伝導最適濃度のx=0.11では磁気モーメントが消失していることなどを明らかにした。
鉄系高温超伝導体の磁性と超伝導の競合関係を示す結果として、研究者の強い注目を集めている。
「極めてまれな事象を探る計算機シミュレーション」
最近、情報処理をはじめとする様々な統計物理の分野で、極めてまれに生じる現象に対する理解が深まりつつある。統計数理研究所の伊庭幸人氏と東京大学の福島孝治氏は、10の20乗回に1回程度しか起こらないような極めてまれな事象をも、その出現確率を定量的に探りうる計算機シミュレーション法を構築することに成功した。
マルチカノニカル法とよばれるモンテカルロ法の一手法に基づくもので、研究者の強い注目を集めている。
なお、本研究に関連した、西森秀稔氏による解説“Measuring Vary Rare Events”がJPSJのNews and Comments欄 http://dx.doi.org/10.7566/JPSJNC.5.10に掲載されている。
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