JPSJ 2009年2月号の注目論文
「定常熱伝導状態に関する新たな分布法則」
温度勾配のある系での熱伝導現象についての巨視的な理解は、既に19世紀に確立している(Fourier則)。
しかし、コンピューターの廃熱問題など様々な分野で直面する熱輸送を精密に制御するためには、熱伝導現象の原子分子スケールでの理解が不可欠である。
最近、大阪大学の湯川諭氏、東京大学の島田尚氏、伊藤伸泰氏、理化学研究所の小串典子氏からなる研究グループは、粒子系の熱伝導状態を計算機上で再現し、定常的に熱が流れている状態での微視的な熱流の分布を調べたところ、分布にある特徴的な性質が普遍的に存在することを見出した。
熱伝導現象の統計物理的な理解に向けた重要な成果であり、多くの研究者の注目を集めている。
なお、本研究に関連した、太田隆夫氏による解説“Thermal Current Distribution in Nonequilibrium Steady States”がJPSJのNews and Comments欄http://dx.doi.org/10.7566/JPSJNC.6.03に掲載されている。
どなたでもアクセスできるので、ご参照いただきたい。
「強結合の極限にある超伝導
---μSRで見た新鉄ヒ素系超伝導体(Ba1-xKx)Fe2As2---」
わが国発の鉄系新超伝導体に関して、先を競った研究が 世界中で展開されている。今回、高エネルギー加速器研究機構・総合研究大学院大学のミュオン物性研究グループは、青山学院大の秋光純氏、岡部博孝氏らと共同で、ミュオン・スピン回転法(μSR)と呼ばれる、物質内部のミクロな電子状態を観測する実験手法を用い、ホールドープ系の鉄系物質(Ba1-xKx)Fe2As2 を調べ、x=0.4試料において、ほぼ従来の強結合BCS型と見なせる超伝導(Tc = 38 K)が出現していることを見出した。
超伝導の担い手が電子とホールとで超伝導の性質や起源が同じか異なるかの大きな問題も含めて、鉄系新超伝導体の理解へ新たな糸口を与える重要な成果であり、多くの研究者の注目を集めている。