JPSJ注目論文

JPSJ 2009年3月号の注目論文

「加速器からの高速中性子を用いた医学診断用99Moの生成」

我が国でも年間約100万件の核医学診断に使用されている放射性同位体99Moは原子炉で高濃縮ウラン235Uから生成されているが、99Moの安定供給に関して、核不拡散の観点からも含め、現実的な将来展望が問題視されている。最近、日本原子力研究開発機構の永井泰樹氏と初川雄一氏は、小型加速器からの高速中性子(n)の照射による核反応を詳細に調べ、反応断面積が際立って大きい、100Mo (n,2n)99Mo反応による99Mo生成法を提起した。高濃縮235U を用いず、安定に99Moを生成する方法の有力な候補として多くの研究者の注目を集めている。
なお、本研究に関連した、柴田徳思氏による解説 “New Method for the Production of 99mTc Radiopharmaceuticals by the 100Mo(n, 2n)99Mo Reaction”がJPSJのNews and Comments欄http://dx.doi.org/10.7566/JPSJNC.6.04に掲載されている。
どなたでもアクセスできるので、ご参照いただきたい。


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「磁場誘起有機超伝導体λBETS2FeCl4における鉄と伝導電子の奇妙な関係」

λBETS2FeCl4は強い磁場をかけることによって初めて超伝導状態が出現する磁場誘起有機超伝導体である。弱磁場下では反強磁性状態にあり、そのスピンを担っているのはFeCl4イオンに局在した鉄の電子であるとこれまで考えられてきた。ところが、最近、東邦大学秋葉宙氏・西尾豊氏らの研究グループは、低温比熱の実験結果を詳細に解析して、従来の描像とは異なり、鉄の電子は、実際は極低温まで常磁性状態にあること、また、強磁場下で超伝導を担う、有機分子BETSの電子自体が弱磁場下の反強磁性秩序も担っていることを明らかにした。この結果は磁性と(超)伝導が関わる奇妙な関係として、多くの研究者の注目を集めている。
なお、本研究に関連した、宇治進也氏による解説 “Metal-Insulating Transition Revisited”がJPSJのNews and Comments欄http://dx.doi.org/10.7566/JPSJNC.6.05に掲載されている。
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「2次元固体3Heのホールドープにより出現する特異な量子液体」

最近、東京大学の渡辺真仁氏と今田正俊氏は、フェルミ粒子3Heからなる2次元結晶から粒子を抜いていく(ホールをドープしていく)と、形成されたホールが3Heの量子力学的な零点振動効果によって系全体に広がり、系は固体としての性質を保持したまま、量子液体としての性質も合わせもつ状態が実現することを理論的に明らかにした。さらに、この3He系のホールドープで出現する量子液体状態の物性と、相関が強いためモット絶縁体とよばれる絶縁体状態にある電子系にキャリアがドープされることで出現する金属状態の物性とに共通する普遍概念が適用し得ることが示され、多くの研究者の注目を集めている。


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「新しい量子スピンカゴメ格子反強磁性体の発見」

カゴメ格子反強磁性体では、幾何学的フラストレーション効果とスピンの強い量子揺らぎ効果によって、量子スピン液体とよばれる特異な状態の出現が理論的に予測されている。最近、東京大学の岡本佳比古氏・広井善二氏らの研究グループは、理想的なカゴメ格子に極めて近いスピン配列をもつ鉱石を発見し、その量子スピン液体状態の検証に成功した。この成果は、長年にわたり未解明であった量子スピンフラストレート反強磁性体の物性解明を大きく前進させるものであり、多くの研究者の注目を集めている。
なお、本研究に関連した、前川覚氏による解説 “A New Promising Spin 1/2 Kagome Antiferromagnet”がJPSJのNews and Comments欄http://dx.doi.org/10.7566/JPSJNC.6.06に掲載されている。
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