JPSJ 2009年12月号の注目論文
「超流動3HeのB相薄膜のスピン帯磁率の強い異方性」
3HeのB相とよばれる超流動相では、酸化物高温超伝導体などの異方的超伝導と同様、異方的に拡がったクーパー対が超流動を担っている。
これを反映して、薄膜の表面などの境界にアンドレーフ束縛状態とよばれる準粒子状態の出現が理論的に示されているが、3Heは電気的に中性であるためトンネル分光法などが使えず、その実験的検証がこれまでなかった。最近、広島大学の永井克彦氏らの理論グループは、この表面束縛状態を反映して、超流動3HeのB相薄膜の帯磁率が強い異方性を持つことを導いた。本研究で理論的に提起された帯磁率の実験研究は、表面束縛状態、さらには異方的超流動・超伝導の全容解明に繋がるものと期待される。
「プロパースクリュー磁気構造におけるマルチフェロイックスの起源」
強磁性や反強磁性などのスピンの長距離秩序(磁性)と、コンデンサーに出現する電気分極の長距離秩序(強誘電性)とが共存するのがマルチフェロイックス物質である。
電場による磁気秩序の変化、逆に、磁場による電気分極秩序方向の変化といった新奇な物性を示すことから、近年、精力的な研究が行われている。最近、大阪大学の左右田氏・廣田氏らは、大阪大学の木村氏らと共同で、三角格子系マルチフェロイックス物質 CuCrO2において、一つの結晶軸方向の最隣接スピンが(軸方向に垂直な面で)一定角度ずつ回転している磁気秩序--プロパースクリュー磁気構造--と、この軸方向に向いた強誘電秩序とが共存することを見出した。
さらに、その出現メカニズムも明らかにされたことにより、マルチフェロイックス物質の応用を含めた研究の今後の展開が期待される。
なお、本研究に関連した、有馬孝尚氏による解説”Cycloid or Screw:That is the Question”がJPSJ のNews and Comments欄http://dx.doi.org/10.7566/JPSJNC.6.17に掲載されている。
どなたでもアクセスできるので、ご参照いただきたい。
「スピンパイエルス転移の意図的操作:静水加圧効と一軸性圧縮効果」
1次元格子上に等間隔に並んでいた大きさ1/2の量子スピンが、ある転移温度(TSP)以下で、格子変形によるエネルギー損を伴ってでも2個ずつの隣接スピンが接近し、(合成スピンがゼロの)スピン二量体化状態へ移行する量子磁気転移をスピンパイエルス(SP)転移と呼ぶ。
このTSPは格子間距離、従って、印加圧力に依存することが予想されるが、最近、九州工業大学の美藤正樹氏らの研究グループは、SP分子性導体BBDTA・InCl4のTSPが、スピン二量体化方向の一軸性圧縮によって上昇するのに対して、等方的な静水圧印加では降下することを見出した。スピン二量体化の生じる方向と直交する方向での格子変形もまたTSPを決める要因であることを示す結果であり、圧力印加を自在に操作する実験によって、SP物質の多様な物性が解明されていくものと期待される。
なお、本研究に関連した、村田惠三氏による解説”Unveiling the Spin-Peierls Transition by Means of Uniaxial and Hydrostatic Pressures”がJPSJ のNews and Comments欄http://dx.doi.org/10.7566/JPSJNC.6.18に掲載されている。
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