JPSJ 2010年5月号の注目論文
「ドハース・ファンアルフェン効果で見た鉄系高温超伝導体の電子状態」
2008 年に東京工業大学の神原、細野らによって報告された、鉄とヒ素を含む化合物における新たな高温超伝導の発見は、瞬く間に世界中を巻き込んだ研究・開発競争を引き起こし、現在では最も高い超伝導転移温度は絶対温度55度(摂氏マイナス218度)近くに達している。これは銅酸化物高温超伝導体以外では最高である。
鉄系超伝導体中の電子状態(電子がどのように運動しているか)を知ることは、超伝導の起源を解明し、究極の目標である室温超伝導を目指してさらに新たな高温超伝導体を探索する指針を得るために重要である。
電子状態を示す代表的な量は電子の有効質量である。電子は、固体中では真空中の電子とは異なった質量を持つ粒子のように振舞う。最近、物質・材料研究機構、産業技術総合研究所、千葉大学、神戸大学、JST超伝導研究特別プロジェクトの共同研究グループは、鉄系超伝導体の電子状態を実験および計算によって詳細に調べた。その結果、実験から得られた有効質量は、計算の結果の3~7倍であることがわかった。これは、現在の技術では計算に取り入れることのできない電子相関(電子が他の電子を押しのけながら運動する)の効果を明確に捕らえたものとして十分に評価でき、超伝導の起源の解明に寄与すると期待できる。
「金ナノワイヤ伝導特性と機械的性質の相関」
金のような金属の線を引っ張ると太さが原子数個分になるまで細くできる(ナノワイヤ)。さらに引っ張ると、切れる直前には、一部だけが細くなり本当に原子一個だけでつながっている構造になる。このようなナノワイヤは、電気抵抗が特定の値(12906オーム)の整数分の一の値しかとらないことが理論的に予言されているが、実験によってこれが観測されたりされなかったりで、その違いが何によるものかということは謎であった。東京工業大学のグループは、ナノワイヤが細くなる過程を電子顕微鏡で詳細に調べ、金の結晶構造と引っ張る方向との関係によってこの過程に違いがあり、それによって上に述べた現象がおきたりおきなかったりすることを突き止めた。ナノワイヤには新しい応用が期待されてるが、本論分のような基礎的な研究により、その性質を制御できる道が開かれると期待できる。