JPSJ 2010年11月号の注目論文
「“Massless Dirac電子系” α-(BEDT-TTF)2I3の磁場中電子状態」
現在研究が盛んに行われているグラフェンでは、電子のエネルギーが運動量の二乗ではなく、光のように運動量の一乗に比例する。このような系は、“Massless Dirac電子系”と呼ばれるが、有機伝導体α-(BEDT-TTF)2I3中の電子もこのような性質を示す事が発見された。この物質は二次元的であり、二次元面に垂直に磁場を加えると、電子のエネルギーは、磁場の整数倍の平方根に比例する値をとる。普通の電子系でエネルギーが磁場の(整数+1/2)倍に比例するのとは、大きな違いである。このような性質は、磁場中の電気抵抗の温度への依存性を詳細に調べる事で解明された。
「フラストレーションが生みだす特異なスピンの液体状態」
電子スピンの集合におけるフラストレーションとは、各スピンが向きたい方向が互いに矛盾しており、あちらを立てればこちらが立たず、という状態である。これは、スピンが乗っている結晶格子の形が特異である場合におこる。フラストレーションのないスピンの集合では、低温ではスピンは各々がある方向を向いて動かなくなる状態となる(秩序化;強磁性、反強磁性等がその典型である)。フラストレーションのある場合には、低温になってもスピンは動き続け、方向が固定されない。このような状態は、スピン液体と呼ばれる。この研究では、六角格子状のスピンの集合が、低温で今までにはない特殊なスピン液体となる事が理論的に予言された。
「超伝導発現機構とメタ軌道転移のつながり」
レアメタル(希土類金属)を含む物質は強力な磁石となる事は、話題になっているところである。このような物質は、高い圧力下では超伝導を示す事が最近わかってきた。超伝導は電子の間に働く力によっておこる。アルミニウムのような通常の超伝導体では、この力は格子振動によるものである。また、磁気的(電子のスピン)な揺らぎによる超伝導も知られている。この論文では、メタ軌道転移という、スピンではなく電子の軌道状態の変化が起こりうる事を指摘し、その揺らぎによる新しい超伝導の機構を提案した。