JPSJ 2010年12月号の注目論文
「Ba(Fe1-xCox)2As2 の超伝導の圧力と組成による制御」
鉄系超伝導体の超伝導が何に起因するものかという事は、あまりよくわかっていないといえる。銅酸化物の高温超伝導体では、スピンの揺らぎが重要な役割を果たしている。この研究では、上の物質のxと圧力による臨界温度の変化を調べ、これらを適当にスケールすれば曲線が一つに重なる事を示した。その結果、xの変化の影響は、格子の膨張・収縮によるものであると結論した。また、超伝導に直接影響するのはFeとAsの距離である事を示した。この距離の変化が超伝導の原因と考えられるスピンや軌道の揺らぎとどのような関係にあるのか、が今後の研究として重要である。
「鉄系高温超伝導体に姿を現した新しい超伝導機構」
現在提案されている鉄系超伝導体のメカニズムは、銅酸化物の高温超伝導体と同様な磁気的な揺らぎによるものである。これにより鉄系超伝導体の一部の特徴は説明できるが、鉄原子を多量の不純物で置換しても超伝導が維持されることは説明できない。最近の超音波実験で、弾性定数C66モードの巨大なソフト化が観測され,磁性揺らぎとは異なる新しい超伝導メカニズムの可能性が高まっていた。この研究では、C66モードに対応する格子と電子軌道との結合効果を取り入れたモデルを提案し,この格子-軌道結合によって軌道揺らぎを起源とする超伝導が実現することを明らかにした。
「磁場に対して強固なスピングラス」
スピングラスの理論は、最適化問題や神経回路網など、幅広く応用されている。スピングラスはスピン間の結合エネルギーがランダムに符号が変わっている系であるが、低温では、個々のスピンがランダムな方向にむいた「スピングラス状態」をとりうる。この状態は秩序がないように見えるが、「レプリカ対称性の破れ(Replica-Symmetry-Breaking, RSB)」によって特徴付けられる秩序がある。このような秩序の特徴は、磁場中でも存在する事であるが、これまでの実験では、それを確認する事は難しかった。この研究では、スピンの緩和時間が低温で発散する事を測定し、磁場中でもRSBが存在する事を確認した。