JPSJ 2011年2月号の注目論文
「Sr3YCo4O10.5のCo3+中間スピン状態の軌道秩序」
近年の強相関電子系の研究では、電子の持つ自由度である電荷・スピン・軌道の結晶構造の上での多様な振る舞いから特異な物性が発現することが明らかとなってきた。一方コバルト酸化物では、この電荷・スピン・軌道の自由度に加えて、フント結合と結晶場のエネルギーが拮抗するために新たにスピン状態の自由度が出現する。例えば、Co3+(3d6) でフント結合と結晶場の効果を考えると、高スピン(HS: t2g4eg2) 状態と低スピン(LS: t2g6) 状態の出現が考えられる。さらに、実験的・理論的に中間スピン(IS: t2g5eg1 ) 状態の出現も期待され、HS,IS,LS というスピン状態の自由度が出現する。特に中間スピン状態は、t2g に比べ遍歴の強いeg 軌道に電子を持つこと、さらに軌道自由度が存在することから、軌道状態と伝導が関係する物性の発現が期待されている。実際、共鳴X線散乱の実験で、Co3+の中間スピン状態の存在を示唆する重要な証拠が得られた。
「大容量キャパシタから生ずる電界誘起超伝導」
異なる物質を貼り合わせてできた界面の研究は半導体物性研究の主流のひとつであるが、物性研究の対象となっていたのはもっぱら固体?固体界面であった。一方で電気化学の分野では、固体と液体(またはゲル、ポリマーなど)の界面現象が古くから研究されてきた。電解液中の電極間に電圧をかけると、電極表面には固体?固体界面では実現できなかったほどの高いキャリア濃度をもつ二次元電子系が実現する。この研究では、層状窒化物絶縁体ZrNClの粉末試料を材料とした二次元電子系を観察することにより、超伝導が生じていることを示した。