JPSJ 2011年4月号の注目論文
「グラフェンを用いた超伝導ジョセフソン素子の特性解析」
2004年にマンチェスター大学のGeimらは単層グラフェンに電極を取り付けた微小な電界効果トランジスタを作成し、電気伝導特性の測定に成功した。これが口火となり、グラフェンを主役としたナノエレクトロニクスの研究が爆発的に進展している。超伝導エレクトロニクスの分野では、二つの超伝導体をグラフェンを介して弱く結合させたジョセフソン接合素子が注目されている。この研究では、超伝導体とグラフェンの結合の強さが素子の性質に大きな影響を与えることが示されており、素子の開発の指針の一つとなることが期待できる。
「反強磁性磁気秩序と共存する高温超伝導現象」
転移温度の高い銅酸化物や鉄ヒ素系超伝導体では、磁性と超伝導の絡み合いが重要であることは認識されているが、その関係は必ずしも明確ではない。この研究では、銅酸化物系の超伝導体Ba2Ca4Cu5O10(F,O)2の磁性について、NMR(核磁気共鳴法)による詳細な研究を行った。その結果、52K以下では、超伝導と反強磁性が一様に共存することを発見した。又、反強磁性秩序変数が超伝導転移にともない変調されることから、銅酸化物高温超伝導体において反強磁性と超伝導の秩序変数が相関していることを初めて明らかにした。さらにこの物質を多方面から研究することにより、超伝導の機構の解明に向けての進歩が期待できる。
「リラクサー誘電性と関係する新規起源の超常磁性」
広い温度領域で大きな誘電率を示すリラクサーと呼ばれる物質群は,非常に大きな圧電効果を示し、理想的な圧電・誘電材料としてコンデンサーやアクチュエータなど広い分野で利用されている。現在、リラクサー特有の現象をすべて説明するような定説は存在しないが、リラクサーの特性にはPolar Nanoregion (PNR)と呼ばれる“自発分極を持ちながらランダムな方向を向いた数ナノメートルスケールの局所領域”が重要な役割を果たしていると考えられている。
この研究では、誘電体(1-x)BiFeO3-xBaTiO3に対して中性子散乱実験などを行い,その結果リラクサー誘電性と密接に関係する超常磁性を発見した。この結果は、電場による超常磁性の制御といった新規電気磁気効果の可能性を示唆している。