JPSJ注目論文

JPSJ 2011年5月号の注目論文

「モルフォチョウの青色後方反射の起源」

モルフォチョウは中南米に生息する蝶で、その光沢のある強烈な青色から、100年以上も前から科学者の注目の的であった。蝶の翅についている鱗粉は発色や撥水機能をもちながら、可能な限り薄く軽量でなければならない。そのため、鱗粉は透かし彫りになっている。最近では、モルフォチョウの構造や発色機構をまねた工業製品が作られ、実際、繊維や塗料など多くの分野で活躍している。この論文の成果は、モルフォチョウの鱗粉の特殊な構造により、光が翅にあたると正反射するのではなく、裏側の方向に強く反射することを示したことにある。波長によらない正反射光を防げば、翅の色をくっきりと見せることができる。このように、光の反射方向を十分に広げることが、生存競争に役立っていると考えられる。


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「Pr化合物中に発見された4f電子と核の複合準位系」

希土類化合物の磁性や超伝導に関連した多彩な性質は、希土類イオンの4f電子が持つスピン角運動量と軌道角運動量によりもたらされると考えられていた。原子核も同様に核スピン角運動量を持つが、その磁気モーメントは非常に小さく、電子と核スピンの間に働く超微細相互作用は他の相互作用に比べて非常に弱いため、核スピンが表に出てくることはないと考えられていた。この研究では、充填スクッテルダイトと呼ばれる一連の化合物の一つであるPrRu4P12において、Prイオンの持つ4f電子が超微細相互作用を通して核スピンと結合し、両者が複合した特異な状態を形成していることを見出した。比熱と磁化の高精度測定を行い、その結果をこの複合準位モデルでほぼ矛盾無く説明することに成功した。


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