JPSJ 2011年8月号の注目論文
「超周期構造がない反強磁性秩序が誘起する強誘電性」
複数の強的な性質(例えば強磁性、又は反強磁性と強誘電性)が共存している物質の事をマルチフェロイック物質と呼ぶ。これまでは、ある種の磁気的な超周期構造の形成に伴う系の対称性の低下を利用して、時間反転対称性と空間反転対称性の両方が同時に破れた状態を作り出すことが、マルチフェロイック物質の探索の鍵であると考えられていた。しかし、この研究では、Cu3Mo2O9 が磁気的超周期構造をもたないマルチフェロイック物質であることがわかった。これにより、新しいマルチフェロイック物質の探究の可能性がさらに広がることが期待できる。
「遍歴強磁性体の温度・圧力・磁場相図と量子臨界終点」
2次相転移点を圧力、化学置換、磁場などの外部パラメータによって絶対零度まで変化させ、絶対零度まで到達した場合、2つの相の間の揺らぎが絶対零度でも存在する。この絶対零度の2次相転移点は一般に量子臨界点を呼ばれ、この付近では超伝導の出現や、通常の金属で成り立つフェルミ液体からの逸脱などの興味深い現象がしばしば報告される。多くの強磁性体では転移温度が絶対零度に近付くと2次相転移であったものが1次相転移に変化するため、量子臨界点を持たないと考えられている。この研究では、遍歴強磁性体UGe2に着目し、圧力に加えて磁場を外部パラメータとすることで量子臨界終点と呼ばれる新たな量子臨界点の存在を明らかにした。
「非磁性モット転移のメカニズムの解明---ダブロン-ホロン束縛効果」
ある物質が金属(導体)となるか絶縁体になるかという基本的な問題については、簡単な場合を除いて、分かっていないことが多い。固体中の電子は、動き回ることによって持つ運動エネルギー(W)と、電子間クーロン力による斥力エネルギー(U)の2つを持っている。運動エネルギーの方が優勢であれば金属であるが、クーロン斥力エネルギーが優勢になると、あるU/Wの値以上で絶縁体になるという可能性がある(モット金属-絶縁体転移)。最近の研究で二重占有サイト(ダブロン)-空サイト(ホロン)間の束縛効果が、本質的にモット金属-絶縁体転移にとって重要なことが明らかになりつつある。この研究では、2次元ボーズ粒子系について、ダブロン-ホロン間の束縛および解放がモット転移の本質であることを確認した。