JPSJ 2011年9月号の注目論文
「世界一複雑な原子配列を持つ高温超伝導体」
この論文では、化学式Ca(Pt4As8)(Fe2-xPtxAs2)5で表される新しい鉄白金系高温超伝導体を発見した事が報じられている。超伝導転移温度は絶対温度38 ケルビン(摂氏マイナス235度)で、いわゆる鉄系超伝導体の物質群の中では3番目に高いものである。鉄系超伝導体は、超伝導を担う鉄ヒ素(FeAs)二次元層の間にスペーサーと呼ばれる層間物質が交互に積層した原子配列をとる。今回発見された超伝導体のスペーサー層は、白金ヒ素(Pt4As8)層とカルシウム(Ca)からなる非常に複雑なものであり、白金(Pt)量の調整や白金以外の元素を導入することで、より高い超伝導転移温度が実現できるかもしれない。
「ベイズ推定に基づく画像の修復と領域分割」
三次元世界が網膜というセンサを経て二次元画像に変換されるとき,その奥行き方向の情報は失われる.この二次元画像から三次元世界を再構成することは画像処理工学と視覚脳科学の共通の目的の一つである。三次元世界が二次元画像に変換されるとき,物体はその前方の物体によってしばしば遮蔽されるが,失われた奥行き方向の前後関係をこの遮蔽から推定することができる.画像内の遮蔽を見つける有力な手掛かりとなるのが,画像をある一定の特徴を持つ小領域に分割する問題,「領域分割」である。通常われわれが入手できる観測画像は大なり小なり原画像にノイズが重畳したものである.画像を正しく領域分割するためには,ノイズを除去した画像修復の結果が必要である.また,正しい画像修復のためには領域分割の結果が必要である。このように画像の修復と領域分割は,鶏と卵の問題,すなわち片方が決まらなければもう片方も決まらない難しい問題である。この論文では、最近開発されたベイズ推定により画像の修復と領域分割を行う決定論的なアルゴリズムについて述べている。