JPSJ注目論文

JPSJ 2012年1月号の注目論文

柔らかくなるほど高くなる超伝導転移温度

固体には温度を冷やすにつれて徐々に硬くなってゆくという性質がある。ところが、2008年に東京工業大学の細野秀雄教授のグループが発見した鉄系超伝導体では、不思議なことに低温になるにつれて柔らかくなることが知られていた。この不思議な性質はNb3Snなどの実用超伝導体でも知られていたが、この性質が超伝導の発現とどのように関わっているのかは明らかではなかった。今回、岩手大学大学院工学研究科フロンティア材料機能工学専攻の吉澤正人教授の研究グループは(独)産業技術総合研究所等の研究グループと共に、固体が柔らかくなることと超伝導の発現との間に密接な関係があることを明らかにした。


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逆光電子回折現象:原子構造解析の新手法としても有望

光電子回折・光電子分光は今や物性研究には欠かせない手法である。光電子の角度分布やエネルギースペクトルから固体の原子構造や電子状態の情報が得られる。実際には、固体内では光の侵入長よりも電子の平均自由行程が短く、光電子の大半は非弾性散乱を受け、光電子分光や光電子回折のバックグラウンドを形成する二次電子となる。この二次電子の詳細な理解が光電子分光や光電子回折の解釈の信頼性向上に必須である。最近、奈良先端科学技術大学院大学と高輝度光科学研究センターのメンバーを中心とする研究グループは、電子が固体中でエネルギーを失う際、光電子回折の逆過程に相当する経路があることを見出した。独自の二次元電子分析器で二次電子の角度分布を測定したところ、光電子回折と真逆な強度分布が得られることを初めて明らかにした。


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放射光で生成されたγ線で見る原子・分子のスローダイナミクス

液晶などのソフトマター中では分子の運動は液体中よりも遅く、特にナノ秒よりも遅い時間スケールでの運動に興味が持たれてきた。また、人体など複雑な組成のソフトマター中では、内部で様々な運動が起きていると考えられ、運動している部位のサイズを特定した状態で観測することができる手法を開発することは、ソフトマターの微視的な基礎理解を飛躍的に向上させることが期待できるため、非常に重要であると考えられる。しかしながら、これまでの手法では、原子・分子のスケール(0.1 ~ 6 nm)の構造が1 nsから10 μsの時間スケールで緩和するような場合に、その空間スケールを特定した迅速な緩和ダイナミクスの測定は困難であった。最近、京都大学原子炉実験所、京都大学理学研究科、高輝度光科学研究センターのメンバーを中心とする研究グループは、大型放射光施設SPring-8の核共鳴散乱ビームライン(BL09XU)で利用可能な放射光を用いて単色性の高い高指向性γ線を生成し、それをプローブ光として準弾性散乱測定に用いることで、通常の液晶と分子スケールで会合するようにデザインされた両親媒性液晶の系でその運動性が同じ程度であることを見出した。その結果、両親媒性液晶の系では微視的に分子の会合が強く起きていないことが示唆された。


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