JPSJ注目論文

JPSJ 2012年5月号の注目論文

分子状イリジウム鎖の化学結合切断で現れる超伝導(要旨)

 三角格子やパイロクロア格子などの幾何学的フラストレーションを有する系では、しばしば分子状のクラスターが形成される。このクラスター形成は軌道秩序や軌道密度波によって引き起こされる可能性がある。岡山大学大学院自然科学研究科の研究グループは、三角格子イリジウムカルコゲナイドIrTe2に形成されたIr直鎖の分子状クラスターが、わずか3%のPtドープによって融解し、臨界温度3.1 Kの超伝導が現れることを発見した。IrTe2におけるクラスターの形成がイリジウムイオンの軌道秩序によるとすると、分子状クラスターの融解で現れたIrTe2の超伝導は、軌道揺らぎに媒介されている可能性が高く、興味深い。


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重い電子はどこで、どのようにして生まれるのか?(要旨)

 Ceなどの希土類化合物などでは、しばしば電子の静止質量より100倍以上大きい有効質量を持つ伝導電子が見出されている。このような重い電子が形成されるメカニズムとして近藤効果が重要だと考えられている。近藤効果は、希薄磁性合金の電気抵抗が温度の低下とともに減少した後、再び-log Tに比例して上昇し、さらに低温では一定となる現象である。希土類に含まれるf電子は室温では局在磁気モーメントを持ち、あたかも局在した電子のようにふるまい、低温では近藤一重項と呼ばれる伝導電子とf電子がお互いに結合した状態が形成される。東北大学、物質・材料研究機構のグループは、LaRu2Si2のLaを2%Ceに置き換えた合金において、ド・ハ-ス - ファン・アルフェン効果の振動の周波数の温度変化を精密に測定した。周波数は電気抵抗変化とほぼ対応した連続的な変化を示し、温度の降下により伝導電子数が増加していることを示している。また、信号強度の温度変化から、近藤一重項が形成されると有効質量が約2.5倍になることも示した。これは近藤温度よりも十分高い温度領域では局在していたf電子が、温度の降下とともに近藤効果によって次第に遍歴的となり、十分低い温度では遍歴する重い電子となることで理解できる。


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