JPSJ 2013年6月号の注目論文
電子キャリア注入型(T’構造)銅酸化物超伝導体の還元処理による電子・スピン状態の変化 —ノンドープ超伝導の発現メカニズムを提案—
電子キャリア注入型の所謂T’構造をもつ銅酸化物の薄膜試料において、過剰な酸素を効果的に取り除くことで、電子キャリアを注入しなくても超伝導(所謂ノンドープ超伝導)が発現すると報告されていたが、詳細は明らかではなかった。本研究では、電子型超伝導体の高品質のバルク単結晶を育成し、酸素を取り除く方法を工夫することによって、今までは絶縁体と思われていた電子濃度を持つ単結晶で超伝導を発現させることに成功した。さらに、磁場中での電気抵抗率の測定結果に基づいて、ノンドープ超伝導が強い電子相関に基づく電子エネルギーバンド構造で理解できることを提案した。
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Evolution of the Electronic State through the Reduction Annealing in Electron-Doped Pr1.3-xLa0.7CexCuO4+δ (x=0.10) Single Crystals: Antiferromagnetism, Kondo Effect, and Superconductivity
Tadashi Adachi, Yosuke Mori, Akira Takahashi, Masatsune Kato, Terukazu Nishizaki, Takahiko Sasaki, Norio Kobayashi and Yoji Koike: J. Phys. Soc. Jpn. 82 (2013) 063713
基板上Si単原子層膜(シリセン)でのディラック電子の消失と出現
炭素原子から成る蜂の巣状の単原子層膜であるグラフェンは、その魅力ある物性と応用上の重要性から多くの研究者を引き付けている。周期表の同族であるSi原子から成る同様の構造(シリセン)が実現されれば、その重要性はグラフェンに勝るとも劣らない。本研究では、実験的に用いられている銀(111)基板上のシリセンに対する量子論の第一原理に立脚した計算により、シリセンの様々な安定および準安定構造を明らかにすると同時に、いずれの構造でも、基板との相互作用により、ディラック電子は消失することが明らかにされている。また、ディラック電子が保存される新たな基板材料が提唱されている。
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Absence of Dirac Electrons in Silicene on Ag(111) Surfaces
Zhi-Xin Guo, Shinnosuke Furuya, Jun-ichi Iwata, and Atsushi Oshiyama : J. Phys. Soc. Jpn. 82 (2013) 063714
重陽子加速器による中性子を用いた放射性同位体生成
医療、産業、研究・教育等の分野で利用される放射性同位体(RI)を、単一性能の重陽子加速器で得られる高速中性子を用い製造する革新的システムを提起した。本システムは、濃縮ウランを使用することなく、多様な高品質RIを、不要なRIを微量に抑えて製造できる。本施設は小規模で、運転操作も容易に行えることから、原子炉を有しない国を含め世界に普及するものと期待される。
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Generation of Radioisotopes with Accelerator Neutrons by Deuterons
Yasuki Nagai, Kazuyuki Hashimoto, Yuichi Hatsukawa, Hideya Saeki, Shoji Motoishi, Nozomi Sato, Masako Kawabata, Hideo Harada, Tadahiro Kin, Kazuaki Tsukada, Tetsuya K. Sato, Futoshi Minato, Osamu Iwamoto, Nobuyuki Iwamoto, Yohji Seki, Kenji Yokoyama, Takehiko Shiina, Akio Ohta, Nobuhiro Takeuchi, Yukimasa Kawauchi, Norihito Sato, Hisamichi Yamabayashi, Yoshitsugu Adachi, Yuji Kikuchi, Toshinori Mitsumoto, and Takashi Igarashi: J. Phys. Soc. Jpn. 82 (2013) 064201