JPSJ 2014年4月号の注目論文
「烏合の衆」はどのようにしてまとまり,そしてコミュニケーションするのか -ミドリムシ生物対流の局在構造とその相互作用-
広島大学の研究グループは,微生物の一種であるミドリムシが多数含まれる懸濁液を用いた実験を行い,ミドリムシ集団が流れと相まって興味深い生物対流パターンを形成・維持することを明らかにした.その一つはただ一組の渦対からなる「単位生物対流」とでも呼ぶべきもので,まるで意思を持つかのように気まぐれに動き出したりその場に留まったりする。また単位生物対流が複数あると衝突して一つになったり一定の距離を保ってその場に留まったりする.この研究により非平衡系での局在構造の形成や単純生物の集団行動の理解が進むと期待される.
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Localized Bioconvection Patterns and Their Initial State Dependency in Euglena gracilis Suspensions in an Annular Container
Erika Shoji, Hiraku Nishimori, Akinori Awazu, Shunsuke Izumi, Makoto Iima, J. Phys. Soc. Jpn. 83, 043001 (2014).
スピンの波に現れる普通とは逆の量子効果
磁性体の励起現象は,磁性原子がもつスピンの波(スピン波)としてよく説明できる。スピン波のエネルギーは,通常,スピン波理論によって求められる。しかし,スピンの大きさが小さい一次元や正方格子反強磁性体では,エネルギーは量子効果によってスピン波理論で求めた値よりも大きくなることが知られている。本論文の著者は,竹籠の編目と同じ構造の籠目格子反強磁性体で,かつスピンの大きさが小さいCs2Cu3SnF12のスピン波を中性子散乱実験で測定し,そのエネルギーがスピン波理論の予想する値の約60%にしかならないという,通常とは全く逆の量子効果を発見した。
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Large Negative Quantum Renormalization of Excitation Energies in the Spin-1/2 Kagome Lattice Antiferromagnet Cs2Cu3SnF12
Toshio Ono, Kittiwit Matan, Yusuke Nambu, Taku J. Sato, Kazuya Katayama, Satoshi Hirata, Hidekazu Tanaka, J. Phys. Soc. Jpn. 83, 043701 (2014).
第一原理計算で見る窒化による希土類磁石の高性能化
高性能磁石材料としては、飽和磁化が大きく、保磁力が大きいことが求められる。保磁力の決定因子は未解明の材料科学的課題であるが、物質の一軸性結晶磁気異方性と正の相関がある。本研究では、新規磁石探索の起点として、高い鉄密度を持つ高性能希土類磁石で、注目すべき素材を全て含むNdFe11TiNを取り上げ、第一原理計算を用いて、Fe のTi による置換およびNの挿入による磁化の変化と一軸性結晶磁気異方性の変化の微視的機構を解明した。特に、Nの挿入による磁化の増大と、一軸性結晶磁気異方性の著しい増大に対して電子論的解釈を与えた。
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First-Principles Study of Magnetocrystalline Anisotropy and Magnetization in NdFe12, NdFe11Ti, and NdFe11TiN
Takashi Miyake, Kiyoyuki Terakura, Yosuke Harashima, Hiori Kino, Shoji Ishibashi, J. Phys. Soc. Jpn. 83, 043702 (2014).