JPSJ注目論文

JPSJ 2016年4月号の注目論文

λ型構造をもつ有機超伝導体のギャップ構造の対称性

 非従来型超伝導の起源・機構の解明は固体物理学の中でも重要な課題の一つである。有機物で発現する多くの超伝導状態も非従来型であると考えられているが、微結晶の熱容量を高感度に測定することの困難さから正確な議論が行われていない物質が多く存在する。本研究では近年開発された微小単結晶で測定可能な高感度熱容量測定装置を用いて有機超伝導体λ-(BETS)2GaCl4の低エネルギー励起構造を電子熱容量から正確に議論した。この超伝導相は電子相関から生じる秩序相には隣接していないにも関わらず電子間斥力を起源とするd波超伝導状態をとっていることが報告された。

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原論文は以下よりご覧いただけます
Thermodynamic Evidence of d-Wave Superconductivity of the Organic Superconductor λ-(BETS)2GaCl4
Shusaku Imajo, Naoki Kanda, Satoshi Yamashita, Hiroki Akutsu, Yasuhiro Nakazawa, Hiroya Kumagai, Takuya Kobayashi, Atsushi Kawamoto, J. Phys. Soc. Jpn. 85, 043705 (2016).



量子もつれを解きほぐすことでトポロジカル絶縁体を理解する

 絶縁体であるにも関わらず境界には必ずキャリアが存在するトポロジカル絶縁体は、いわばスピンごとの量子ホール相であるが、量子ホール効果の研究で有用であった手法(チャーン数)は、その研究では全く役にたたず、少し変わったZ2量子数が重要であると考えられてきた。当該論文では、スピン間の量子もつれを解きほぐすことで得られるエンタングルメントチャーン数という新しい量子数を用いれば、トポロジカル絶縁体の基本模型であるKane-Mele模型の相図が容易に再現でき、また時間反転対称性を破ることで新しいトポロジカル相が生まれることが示されている。

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Entanglement Chern Number of the Kane–Mele Model with Ferromagnetism
Hiromu Araki, Toshikaze Kariyado, Takahiro Fukui, and Yasuhiro Hatsugai, J. Phys. Soc. Jpn. 85, 043706 (2016).



鉄ニクタイドにおける置換とドーピングの興味深い例

 元素の“置換”は電荷のキャリアーの“ドーピング”をもたらし、それは翻って超伝導を誘起する —この原理は、新奇超伝導体の多くの仲間において成功を収めてきた。しかしながら、鉄ニクタイドのBaFe2As2のファミリーでは、この素朴な期待に反する振る舞いが見られることが見いだされた。すなわち、この系における電気的、磁気的構造に対するドーピング効果は置換による構造への直接的な影響ほどには重要な効果を持たないことを示唆している。

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原論文は以下よりご覧いただけます
Of Substitution and Doping: Spatial and Electronic Structure in Fe Pnictides
Michael Merz, Peter Schweiss, Peter Nagel, Meng-Jie Huang, Robert Eder, Thomas Wolf, Hilbert von Löhneysen, and Stefan Schuppler, J. Phys. Soc. Jpn. 85, 044707 (2016).




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