JPSJ 2017年4月号の注目論文
制御の問題から見る量子と古典のつながり
量子・古典力学におけるハミルトニアンは、状態の時間変化を定める役割を果たすと同時にエネルギーという意味ももつ。ハミルトニアンを時間的に変動させると時間変化の仕方も変わるが、ハミルトニアンはエネルギーを担う部分と変化の仕方を変える部分に分割される。本論文では、近年量子力学系において制御の観点から理解されるようになったこの性質を古典力学系にまで拡張している。鍵となるのは、新たに導入される一般化された作用である。前期量子論において重要な役割を果たした断熱不変量を包含する量であり、量子と古典のつながりを一般に特徴づける。
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Quantum-Classical Correspondence of Shortcuts to Adiabaticity
Manaka Okuyama and Kazutaka Takahashi, J. Phys. Soc. Jpn. 86, 043002 (2017).
スイマー・マイクロレオロジー
首都大学東京・理工学研究科の研究グループは、ソフトマターのような粘弾性体中を遊泳するマイクロマシン(スイマー)の動作機構について調べ、スイマーの遊泳速度とソフトマターの粘性率や弾性率を結びつける関係式を理論的に導出した。この関係式に基づくと、ソフトマター中のスイマーの運動では「ホタテ貝の定理」が破れることや、スイマー自身の構造非対称性が重要であることが明らかになった。スイマーを用いて粘性や弾性を調べる新しい測定概念は「スイマー・マイクロレオロジー」と命名され、本研究によりその基本原理が与えられた。
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Swimmer-Microrheology
Kento Yasuda, Ryuichi Okamoto, and Shigeyuki Komura, J. Phys. Soc. Jpn. 86, 043801 (2017).
局在性と遍歴性の二面性が生み出す電気四極子由来の新奇な低温電子状態
本研究では,四極子自由度が活性な物質であるPrRh2Zn20における極低温高磁場下輸送係数測定により,低温にみられる4つの特異な電子状態における遍歴的性質が,いずれもその対極にある局在的な結晶場基底状態の性質で説明できることを突き止めた。これは,この系が遍歴・局在という二面性をもち,その双対性が新奇物性を生み出していることを如実に表しており,これまで実験的に明らかではなかった四極子自由度と特異な遍歴電子状態との関係の理解を深めるものである。さらにこの結果をもとに四極子自由度により創出される新奇物性を統一的に理解するための概念的相図が提案された。
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Anisotropic B–T Phase Diagram of Non-Kramers System PrRh2Zn20
Taichi Yoshida, Yo Machida, Koichi Izawa, Yuki Shimada, Naohiro Nagasawa, Takahiro Onimaru, Toshiro Takabatake, Adrien Gourgout, Alexandre Pourret, Georg Knebel, and Jean-Pascal Brison, J. Phys. Soc. Jpn. 86, 044711 (2017).