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AAPPS-JPS Award

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第1回(2023年)AAPPS-JPS Award の受賞者を以下の5名に決定しました。

第1回(2023年)AAPPS-JPS Award の受賞者を以下の5名に決定しました。

授賞理由

※50音順/敬称略

氏 名 2023_ishizuka.jpg
石塚 大晃 (いしづか ひろあき)
所属先 東京工業大学 理学院 物理学系 准教授
業績名 磁性トポロジカル物質における新奇輸送現象の理論的研究
授賞理由 石塚大晃氏は、磁性半導体・磁性金属の輸送現象に関する理論研究において、卓越した業績をあげている若手研究者である。特に、量子効果や物性探索に重点を置いた理論研究で実績を積んできた。スキルミオン物質における研究では、輸送現象における磁気のゆらぎと多重磁気散乱が、異常ホール伝導度の温度依存性に非単調な振る舞いを生じることを発見した。さらに、強結合極限において、この機構が、非常に大きなホール電流を生じることを理論的に示した。非相反応答(ダイオードのように非対称な電流電圧特性を示す現象)の研究においては、磁気散乱により電気的カイラル磁気効果が生じることを発見した。さらに、この非相反応答が磁気モーメントのベクトル・カイラリティと対応していることも明らかにした。これらの石塚氏の研究では、上述した磁気散乱の理論を用いることで、清浄な磁性金属における異常ホール効果や、非線形応答の実験で報告されていた特異な温度・磁場依存性を再現することに成功している。石塚氏の研究成果は、実験的には知られていたものの、理論的には未解明であった磁性体の輸送特性の物理を明らかにしたものであり、波及効果が非常に大きいと考えられる。また、磁気のゆらぎと孤立したスキルミオンを利用した磁気デバイスなど、スピントロニクスへの応用展開を目指した機能性磁気材料の設計に、新たな視点を切り開いたものといえる。
以上のことから、石塚氏はAAPPS-JPS Awardに相応しい顕著な功績があると考える。

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氏 名 2023_nishibata.JPG
西畑 洸希 (にしばた ひろき)
所属先 九州大学 理学研究院 物理学部門 助教
業績名 スピン偏極不安定核ビームによる中性子過剰核の特異な構造の解明
授賞理由 不安定核の研究は、核子系を体系的に理解するために重要です。天体の爆発的な現象や宇宙の元素合成の理解に不可欠です。西畑氏は不安定核のスピン偏極を用いて、不安定核の研究をすすめる新たな手法を開発してきました。この開発により、これまでより多くの核種に適応できるスピン偏極技術を確立しました。さらに、この技術を駆使して不安定核の新たな準位を見出し、スピンバリティを決定することに成功しました。不安定核研究のさらなる発展が期待されています。これらにより、西畑氏はAAPPS-JPS Awardを受賞するにふさわしいと認められる。

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氏 名 2023_michishio.jpg
満汐 孝治 (みちしお こうじ)
所属先 国立研究開発法人産業技術総合研究所
計量標準総合センター研究企画室 企画主幹
業績名 ポジトロニウム負イオンの分光とその応用研究
授賞理由  ポジトロニウムは,電子とその反粒子である陽電子がクーロン力で束縛している状態であり,新たな電子を加えて,エキゾチックなポジトロニウム負イオンを形成することができる。この束縛状態は三体系であり,強い相互作用による摂動を含まないために量子電磁力学により高精度な理論計算が可能であり,実験との比較により,新しい量子現象の探索が可能な系となっている。
 満汐孝治氏は,粒子-反粒子束縛状態としてポジトロニウム負イオンに着目し,基礎研究及び応用研究に取り組んできた。基礎研究として,はじめに,Naコーティングされたタングステン表面を用いて,ポジトロニウム負イオンの効率的な生成法を発見した。次に,その生成法によりポジトロニウム負イオン・パルスビームを作製し,ナノ秒パルス赤外レーザー光と時間空間的に同期させるクロスビーム配置を開発した。その装置を用いて,光電子脱離や形状共鳴の分光観測に世界で初めて成功した。さらに,測定された基底状態や形状共鳴のパラメータ及びポジトロニウムの電子親和力は,最先端の三体系の理論計算と一致することを明らかにした。応用研究として,単一エネルギー・ポジトロニウムビームの生成を可能にした。はじめにポジトロニウム負イオン・パルスビームを作製し,電場で加速し,レーザー光を照射して光電子脱離を行い,単一エネルギーのポジトロニウムビームを得る方法を考案した。そして実証実験で,超高真空中で最大1.9 keVの単一エネルギー・ポジトロニウムビームの生成に成功した。この成果は,基礎研究のみならず,物性物理学への応用も期待される。
 以上のことから,滿汐氏はAAPPS-JPS Awardにふさわしい顕著な功績がある若手研究者であり,将来リーダーとなる人材であると考える。

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氏 名 noimage.jpg

南 雄人(みなみ ゆうと)
所属先 アクセンチュア株式会社 データサイエンスコンサルタント、
大阪大学核物理研究センター 協同研究員
業績名 宇宙マイクロ波背景放射の偏光における宇宙複屈折の観測
授賞理由 宇宙のビッグバンの残光として観測される宇宙マイクロ波背景放射には、素粒子標準模型を超える何らかのメカニズムの影響で、その発生から現在我々の目に届くまでの間に偏光面が回転する(宇宙複屈折と呼ばれる)可能性が指摘されている。その観測においては、測定器自身が回転したことによる影響を精密に同定して分離する必要がある。南氏は、銀河系からの信号と背景放射の信号を同時に測定することでこの分離を精密に行う手法を開発した。この手法は将来ますます精密化する宇宙マイクロ波背景放射実験の基礎になるものと高く評価された。

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氏 名 2023_motohashi.JPG

本橋 隼人(もとはし はやと)
所属先 工学院大学 教育推進機構 基礎・教養科 准教授
業績名 整合的なスカラー・テンソル理論の構築及び新しい重力現象の探求
授賞理由 本橋隼人氏は、拡張重力理論の分野で重要な理論的貢献をしてきました。拡張されたスカラー・テンソル理論がアインシュタイン方程式の解を厳密解として持つ条件を調べ、スカラー場が一定の運動項を持つ非自明なプロファイルを持つ場合にその条件を明らかにしました。
さらに、このようなステルス解と呼ばれる解において一般に摂動が強結合となり、そのままでは現実を説明するモデルとして不十分であることを示した上で、高階微分相互作用を導入することで、低エネルギースケールで問題となるゴーストを生じることなく、安全に強結合を回避できることを示すことに成功しました。
本橋氏はこの他にもより広い拡張重力理論の研究やインフレーションモデルの解析など多岐にわたる研究で成果を挙げており、AAPPS-JPS Awardを受賞するにふさわしいと認められました。

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第1回(2023年)日本物理学会AAPPS-JPS Award選考経過報告

第79期AAPPS委員会*

本選考委員会は日本物理学会AAPPS委員を中心に構成されている。取り決めに従って、昨年日本から推薦されたC. N. Yang賞候補者の中から受賞者を選ぶため、C. N. Yang賞への応募書類をもとに選考を行った。今回の候補者は5名であり、選考委員で応募書類を評価し、6月5日までに事前評価を行った。
選考委員会は2023年6月13日にオンラインにて開催された。出席できなかった委員からの意見は事前に受け取り、当日は出席者からの講評を聞きながら、それぞれの応募者について採択の可否を議論した。評価に際しては、これまでの業績とそこから期待される将来性に的を絞って議論を行い、候補者全員がAAPPS-JPS Award受賞者としてふさわしいとの結論に達した。

*第79期AAPPS委員会 委員
委員長 三原 智
委 員
(日本物理学会)
須藤 彰三、田中 貴浩、所 裕子、能町 正治、橋本 省二、野尻 浩之
村尾 美緒、山本 量一、吉田 善章 
(応用物理学会)
沈 青、中塚 理