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第3回(2025年)AAPPS-JPS Award の受賞者を以下の6名に決定しました。
第3回(2025年)AAPPS-JPS Award の受賞者を以下の6名に決定しました。
授賞理由及び選考経過報告
授賞理由の著作権は日本物理学会に帰属します。HP等にご転載をご希望の場合は、日本物理学会事務局・国際担当(kokusai-s@jps.or.jp)までお問い合わせください。
※50音順/敬称略
氏 名 | 川畑 幸平 (かわばたこうへい) |
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所属先 | 東京大学 物性研究所 准教授 |
業績名 | 非エルミート物理における対称性とトポロジー |
授賞理由 | 川畑幸平氏は、非エルミートのハミルトニアンを用いて記述される非平衡量子開放系における対称性とトポロジーの研究で顕著な功績を挙げてきた。特に、対称性とトポロジーに関する一般論を確立し、ハミルトニアンの非エルミート性に起因する多様な対称性のクラスの存在を発見して、完全なトポロジカル分類に成功したことは、当該分野のブレークスルーとなる画期的な業績である。また、非エルミート系におけるバルク-境界対応やトポロジカル場の理論を解明するなど、非エルミート物理学における対称性とトポロジーの研究を世界的に牽引している。 |
氏 名 | 栗原 貴之 (くりはらたかゆき) |
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所属先 | 東京大学 物性研究所 助教 |
業績名 | テラヘルツ領域における非線形・自発的超高速マグノニクスの開拓 |
授賞理由 | THz帯域における反強磁性体スピンのダイナミクスを理解することは、スピントロニクスの高速化に向けて重要な課題である。栗原博士は、こうした超高速時間領域におけるマグノンの非線形ダイナミクスを研究してきた。具体的には、高強度THz波をプラズモン構造による近接場と組み合わせることで、スピンダイナミクスを効率的に増大できることを示し、またこのようなTHz近接磁場を利用して、オルソフェライトの光誘起スピン再配向相転移におけるマグノンダイナミクスの位相を制御することで、系の飽和磁化の60%以上を選択的に整列させるという、巨視的磁気秩序のTHz制御を達成した。さらに、栗原博士は磁気屈折効果を使用することでYFeO3 におけるマグノン誘起第 2 高調波生成を実証するなど、様々な実験方法論の開拓にも積極的に研究してきた。これらの一連の成果は現在、国際的に認められており、本賞の受賞に相応しいものと認められる。 |
氏 名 | 髙橋 一史 (たかはしかずふみ) |
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所属先 | 京都大学基礎物理学研究所 特任助教 |
業績名 | 一般相対論を超える拡張された重力理論の探究 |
授賞理由 | 髙橋一史氏は、一般相対性理論を超える拡張重力理論の研究において顕著な成果を上げた。博士課程では、ゲージ理論や場の再定義に関する基礎的定理を証明し、拡張された重力理論に関連する不安定性問題を解明した。博士号取得後は、ポスドクとして様々な研究機関で活躍し、重力波やブラックホールに関連する修正重力理論の枠組みの拡張や、ブラックホール摂動理論の構築など、基盤的かつ革新的な研究を行っている。特に、重力波観測を通じて重力理論をテストする研究では、重要な理論的基盤を提供している。これらの研究成果はAAPPS-JPS Awardに値する。 |
氏 名 | 田中 純貴(たなかじゅんき) |
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所属先 | 大阪大学 核物理研究センター 助教 |
業績名 | 中性子過剰物質におけるアルファクラスター形成 |
授賞理由 | 田中純貴博士は、陽子ビームによるアルファ粒子(α)ノックアウト反応を用いてスズ同位体核種内部に発達するαクラスターの形成確率を測定した業績で知られる。この成果は、原子核のα崩壊機構の解明や中性子星のような高密度核物質の状態方程式の記述にとって重要な情報を与える。核内におけるαクラスターの形成やα崩壊に関する理論研究者との共著論文や関連する話題の解説記事の執筆を精力的に行って来た。また、ノックアウト反応を用いた新しい測定のために必要な検出器の開発に中心的な役割を果たしている。以上の業績により、核物理分野をけん引する気鋭の若手研究者として高く評価される。 |
氏 名 | 肥後 友也(ひごともや) |
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所属先 | 東京大学 大学院理学系研究科 物理学専攻 特任准教授 |
業績名 | 磁性トポロジカル半金属の表界面における機能物性開拓 |
授賞理由 | 肥後友也氏は、凝縮系物理学の分野で活躍する若手研究者であり、トポロジカル磁性体の作製と物性研究に積極的に取り組んでいる。肥後氏は、キラルトポロジカル反強磁性体における八極子を検出する方法論の開発において中心的な役割を果たし、新たに発見されたトポロジカル反強磁性体Mn3Snの磁気機能性を明らかにした。また、メモリデバイスに使用可能なMn3Sn薄膜作製に成功した。肥後氏と共同研究者らは、異常ネルンスト効果などの熱電特性を明らかにすることで、この材料や他のトポロジカル強磁性体の薄膜を熱流センサとして利用する可能性を開拓した。研究全体を通して、肥後氏の最近の研究成果は、新しい量子材料の実用的応用に向けたトポロジカル磁性体の磁気特性と熱電特性の理解に重要な進歩をもたらした。 |
氏 名 | 廣瀬 茂輝(ひろせしげき) |
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所属先 | 筑波大学 数理物質系 宇宙史研究センター 助教 |
業績名 | タウレプトンをプローブとしたヒッグスセクターの実験的研究 |
授賞理由 | 廣瀬氏は、大学院生時代にKEK Belle II 実験でのTime-Of-Propagationカウンターの開発を行い、B中間子のタウレプトン崩壊の研究を推進した。その後、LHC ATLAS実験でタウレプトンをプローブとして使用した、ヒッグス粒子に関する実験を行ってきている。ATLAS実験ではHiggs-τ結合の精密測定をリードし、ヒッグスセクター物理の探求において顕著な貢献をなした。2021年-2022年の間はヒッグスのττへの崩壊チャンネルのサブグループのリーダーを務め、機械学習を用いたエラーの軽減に成功し、大きな貢献をした。廣瀬氏は国際的な影響力を備えたリーダーシップに加えて、検出器技術にも高い知見を有しており、将来の高エネルギー物理実験研究の基盤を築く上で重要な役割を果たしている。 |
第3回(2025年)日本物理学会AAPPS-JPS Award選考経過報告
第80期AAPPS委員会*
本賞の選考は日本物理学会AAPPS委員会において行われるという受賞規程に従い、本年のC. N. Yang賞候補者のうち本会会員である方を候補として選考を行った。今回の候補者は9名であり、委員会が依嘱した書面評価の結果を踏まえて、2024年10月28日に選考委員会を開催し、合議審査を行った。評価に際しては、応募者の業績とその発展性、候補者の受賞対象の研究に対する貢献度、および研究者としての将来性について、多面的に議論を行った。その結果、6名の候補者がAAPPS-JPS Award受賞者としてふさわしいとの結論に達し、理事会に推薦し、承認を得た。
*第80期AAPPS-JPS Award選考委員会 委員
授賞式後発表予定