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米沢賞

第1回(2020年)米沢富美子記念賞受賞者の皆さまへ

2020 年 3 月 31 日 一般社団法人 日本物理学会

第75 期 会長、副会長 よりの祝辞

この度は、第一回 米沢富美子記念賞の御受賞、誠におめでとうございます。この賞は、日本物理学会の女性会員の物理学分野での学問的業績、学会その他の社会活動、教育活動を顕彰するために設立され、本年2020 年より授賞を開始するものです。日本の女性科学者の草分けのお一人であり、物理学、学会活動、教育・アウトリーチ活動、男女共同参画活動などあらゆる面で大きな足跡を残され、本会の初代の女性会長でいらっしゃった米沢富美子先生のご業績を記念し、受賞者には米沢先生のように大きく羽ばたいてほしいという願いを込め、米沢富美子記念賞の名前をつけさせていただきました。大変残念なことに、米沢先生は昨年2019 年の1 月に急逝され、この賞についてお許しを得、また受賞者にお言葉などをいただくことができなくなりました。代えてご遺族のご諒解をいただき、米沢先生のお名前を冠させていただくことになりました。

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1987年3月31日 超伝導現象の解説。
何故か「可愛いコックさん」が描かれている。

米沢先生は、物性物理学の理論、特に完全結晶ではない、アモルファスや合金、液体金属など空間構造に乱れを伴う系の性質の計算で有名です。お若い頃に発見されたコヒーレントポテンシャル近似(CPA)は、こういった系の数値計算にはなくてはならない道具になっています。数学的な計算法の開発から更に具体的な物質の計算に進まれ、液体金属の金属非金属転移の理論でも不朽の業績を挙げられました。このように忙しい研究の傍ら、1996 年には物理学会の初代女性会長となられ、大会の改革など様々な問題に取り組まれました。また、女性科学者の地位向上を目指した「女性科学者に明るい未来をの会」の会長を長年にわたってお務めになりました。猿橋賞、ロレアル-ユネスコ女性科学者賞を始め数多くの大きな賞を受賞されています。ご業績は極めて多岐にわたっており、簡単に紹介するだけでも時間がなくなりますが、米沢先生と言えば何と言っても御著の「二人で紡いだ物語」にもありますように、ご家族を深く愛され、研究者と家庭人を両立されたことが私どもの心に残っているところであります。また、次々と降りかかる困難に正面から挑み、乗り越えていかれる姿には深い感動を覚えます。

今回受賞された五名の皆さまは、いずれも大変素晴らしい業績を挙げられ、社会・学会活動の上でも、米沢富美子記念賞の名に恥じない本会が誇るべき方々です。このような方々に第一回の賞を授与できますこと、賞の設立に微力を尽くさせていただいた者として無上の喜びであります。そして皆さまが、これから更に大きく飛躍されていくであろうことを固く信ずるものです。今現在、世界はコロナウイルス禍により極めて深刻な状況に直面しており、皆様にもその影響は及んでいるかと思います。このような時こそ、何度も大きな困難に遭いながら、明るく突破していかれた米沢富美子先生を思い起し、それを大きな糧として皆さまと共にこの難局を乗り切っていきたいと思っています。

再度お祝い申し上げます。コロナウイルス禍が落ち着いた頃、またお目にかかりましょう。

日本物理学会 第75 期 会長 永江 知文、副会長 勝本 信吾

米沢富美子先生ご関係者様よりのご祝辞

お二人の方から、受賞者の皆さまへのメッセージをいただいておりますのでご紹介申し上げます。これらのメッセージは、授賞式に際して会長が代読することを予定しており、時間の関係で1 分間以内で読めるように短いものをお願いしたものです。

最初は、米沢先生が長年にわたり会長をお務めになった「女性科学者に明るい未来をの会」の現会長で(国)防災科学技術研究所客員研究員、(国)静岡大学客員教授でいらっしゃる石田瑞穂先生です。


「米沢富美子記念賞」の第一回目御受賞の皆様、おめでとうございます。

米沢さんと言えば、「アモルファスの理論研究」と言われますように、内容に疎い私達でも、新分野を切り開き秩序のないものにも面白い物理があることを示してくれた研究者として知らされています。ご業績から米沢さんを想像致しますと近付き難いですが、実際は極めて朗らかでウィットに富んだ方でした。こうした姿勢が、新しい研究を生むバイタリティを育てられたのではないかと思われます。

皆さまも、研究を楽しみ、この度のご受賞を飛躍のための踏み台として今後に生かし、一層の研究成果を挙げられることを期待致します。

「女性科学者に明るい未来をの会」会長 石田瑞穂


次に、米沢富美子先生のご長女で現在英国NHS (National Health Service) でまさにCoVID-19最前線で奮戦中の米澤ルミ子様からのメッセージをご紹介いたします。>


受賞者の皆さん、
第一回米沢富美子記念賞の受賞おめでとうございます。
この度の受賞は前代未聞の世界的パンデミックの真っただ中で、様々な思いをされていることと思います。
私は今このお祝いの言葉を、戦後初めての国家レベルでの最高非常事態を宣言したばかりのイギリス、ロンドンで書いています。こちらの病院で最前線で戦う医師や看護師たちのサポートをしていると、母のことを鮮明に思い出されます。亡き母は常々「女性は底力があるから、男性より強いのよ」と自慢げに話していました。私の偏見かもしれませんが、実際こういった非常事態に面すると女性の方が肝が座っているように思われます。
どの世界でも女性というだけで何かと不利な状況にあることは私も身をもって知らされています。それでも自身の力を信じて突き進んでいけば、周囲のサポートは自然とついてきます。それは母の例を見ていても良くわかります。
今回の受賞を機に、日本物理学会の女性会員の皆様がますますご活躍されることをお祈り申し上げるとともに、今後とも学会の発展を願っております。

米沢富美子・長女 米澤ルミ子