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京都支部だより「市民と物理学者がつながる京都支部活動」

 物理学会京都支部では,市民の皆さんと物理学者がつながり,互いに物理学やその価値について学ぶ機会を,毎年の恒例行事として設けています.それらはとてもうまく進んでいますが,技術的なこと(how)については個別に問い合わせていただくこととして,ここではそれらの行事の内容(what)と意義(why)について,ご紹介します.

 京都支部の恒例の活動は三つあり,①市民講座「物理と宇宙」,②NPO法人「あいんしゅたいん」と共同で行っている,親子理科実験教室,③科学交流セミナー,となっています.開催頻度としては,①は500名程度の集まりを年に1回,②は100名程度の集まりを年に6回ほど,③は随時開催となっています.

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図1 親子理科実験教室の様子.
2024年,京都大学理学部セミナーハウス.

 ①は京都大学の物理学教室との共催の恒例行事として市民に定着しており,2025年には20回目を迎えています.宇宙,という言葉はいつの時代も市民の好奇心を誘いますね.宇宙をキーワードにして,素粒子物理から物性物理までの多様な物理学者が最先端の研究を紹介することで,物理学の体系と考え方を知り学び始める機会として,京都の町に物理学会が市民とつながる結節点の一つとなっています.

 一方②は,子どもが主役の集まりですが,親子理科実験教室と称していることからわかるように,親も一緒に楽しむ機会となっています.活発な子どもたちが思いきり質問できる雰囲気があり,学生・院生などをアシスタントとして配置し,子どもの質問に応じるのが人気です.アシスタントが質問の答えがわからない時は仲間に聞いたりするので,「研究の現場では,わからんことも共有して議論する」という雰囲気も同時に伝えているのが特徴です.教室(定員42名)は保護者も参加しほぼ100名,開催はすでに総計150回を超え,定番の人気企画となっています.

 ③「科学交流セミナー」はこの延長上でもあり,子どもも大人も一緒になって科学を楽しむという企画として,①とは異なった趣です.「物理学とAIの出会い~学習物理入門~」(2024年),「宇宙と生命のふしぎに出会う日」(2025年)など,最新の科学を子どもと一緒に語る企画を実施しています.大人の質問に混じって子どもも質問します.宇宙の話題の際には子どもが沢山質問し,当ててもらえなかった子どもが泣き出すくらい意気込み高く,しかも質の高い質問が続出して大人は顔負けという状況でした.情報過多のいま,科学は科学者の独占物ではないだけでなく,子どもとともの企画ではむしろ大人の方が啓発されている模様です.

 京都支部の活動がこのように活発なのには,理由があります.京都支部の親子理科実験教室の企画は,物理学会のポスドク支援の企画として2010年に始まりました.物理教育に携わる学会員と連動していて,ポスドクのキャリアとして博士号をもった教員の活躍の場を広げようということを目的の一つとしています.この企画を共同で運営している「あいんしゅたいん」自体も,知的人材をもっと社会に生かすべきという目標で,第55期の物理学会会長である故佐藤文隆氏と第62期会長の坂東という同級生が,2009年に立ち上げました(当時は二人合わせて合計140歳).「あいんしゅたいん」というひらがなの名前は佐藤氏の命名とのことです.発足と同時に「科学としての科学教育」1) という研究会を基礎物理学研究所で開催しています.その後,理科教育学会との連携も広がり,科学教育に興味をもつポスドクが「キャリアパス組(仮称)交流会」と題する学会インフォーマルミーティングで仲間づくりを始め,勉強会を立ち上げるとともに,親子理科実験教室の活動にも加わりました.さらに,2010年にはポスドクの活動を支援する京都府支援金が獲得され活動の基盤をつくりました.自ら研究会を作り教育界に新しい風を吹き込もうという熱い思いを応援したものでした.

 親子教室は現在,京都大学セミナーハウスで開催されています.研究林から伐採された木材を活用して建設された建物で,2010年から,国際的な研究や学術的な交流の場として利用されていますが,子どもにとっても居心地のいい空間です.この場所で,若手がコミュニケーション能力を高めながらベテランの教員とも交わる科学普及の場となったのが親子理科実験教室でした.これに参加したポスドクの多くが,その後,大学の教育学部教員やスーパーサイエンスハイスクールを牽引する高校教員となり活躍しています.家庭で科学の論議ができる環境を作ろうという目標は,母親たちの科学論議にも発展し,「日本学術会議in京都」において「万人の万人による万人のための科学」(『学術の動向』2021年6月号)として報告され感銘を与えました.

 このように京都支部は,子どもも物理学者もともに楽しめ成長できる活動を,今後も続ける予定です.物理学会全体に,このような企画が広がっていくと良いなと考えています.

参考文献
1)素粒子論研究117,D1(2009),https://doi.org/10.24532/soken.117.4_D1

(文責:橋本幸士,坂東昌子 / 日本物理学会誌82巻5号掲載)