JPSJ 2016年7月号の注目論文
BiS2系超伝導体における超伝導対称性の解明
近年、首都大の水口らにより二次元BiS2層を有する新規超伝導体が発見された。このBiS2系超伝導体の中には超伝導転移温度が10 Kを超える物質もあり、そして結晶構造と電子構造の鉄系超伝導体との類似性から、その超伝導発現機構に興味が持たれている。今回、我々はBiS2系超伝導体NdO0.71F0.29BiS2の超伝導ギャップ構造を決定するため、低エネルギーの準粒子励起に敏感な測定手法である熱伝導率測定を100 mKの極低温まで行った。測定の結果、ゼロ磁場での残留熱伝導率と磁場依存性が、超伝導ギャップ構造にノードを持つ超伝導体から期待される値よりも圧倒的に小さいことから、ノードを持たないフルギャップ超伝導であることを明らかにした。さらにこの系は残留電気抵抗率が大きく、不純物による対破壊効果が弱いという事実を加味することにより、通常のs波超伝導であると結論付けた。この結果は、BiS2系超伝導体の超伝導発現機構を決定する上で非常に重要な結果であると考えられる。
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Conventional s-Wave Superconductivity in BiS2-Based NdO0.71F0.29BiS2 Revealed by Thermal Transport Measurements
Takuya Yamashita, Yoshifumi Tokiwa, Daiki Terazawa, Masanori Nagao, Satoshi Watauchi, Isao Tanaka, Takahito Terashima, and Yuji Matsuda, J. Phys. Soc. Jpn. 85, 073707 (2016).
29Si濃縮 超純良単結晶が可能にしたURu2Si2の高精度ナイトシフト測定
29Si同位体を高濃度に濃縮した超純良単結晶URu2Si2を用いた面内ナイトシフトの測定を行った。ウラン化合物URu2Si2は、遍歴多極子秩序と期待される新奇な電子状態を示すことで知られているが、それと共存する超伝導については未だ不明な点が多い。今回、非常に狭い線幅を持つ29Si NMRスペクトルにより達成された高解像度のナイトシフト測定から、超伝導転移に伴う面内スピン磁化率の変化が、理論的に予想されていたものよりはるかに小さいことを明らにした。本成果は新奇な電子状態における特異な超伝導状態について手がかりを与えるものである。
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No Detectable Change in In-Plane 29Si Knight Shift in the Superconducting State of URu2Si2
Taisuke Hattori, Hironori Sakai, Yo Tokunaga, Shinsaku Kambe, Tatsuma D. Matsuda, and Yoshinori Haga, J. Phys. Soc. Jpn. 85, 073711 (2016).