JPSJ注目論文

JPSJ 2019年7月号の注目論文: フォノンドラッグによる熱電効果の線形応答理論:FeSb_2への応用

フォノンドラッグによる熱電効果の線形応答理論:FeSb2への応用

排熱を電気エネルギーに変換する熱電材料開発は基礎科学の社会貢献という観点から極めて重要であり理論・実験両面から多くの研究が展開されてきた。しかし、従来の研究は個別的であり俯瞰的視点に欠けていた。最近になってKubo-Luttingerによる線形応答理論に基づく系統的な研究が展開され、バンド端電子状態の詳細や電子・格子相互作用が果たす役割が徐々に明らかになってきている。その中で、ナローギャップ半導体FeSb2は電気抵抗が特徴ある温度依存性を示す低温領域で極めて大きなゼーベック効果を示す特異な例として注目を集めている。電気抵抗の特徴的な温度依存性から強い不純物ポテンシャルの存在が、ゼーベック係数のサイズ依存性からフォノンドラッグの可能性が示唆されていたが、従来からのボルツマン輸送方程式では強い不純物ポテンシャルの効果を扱うことができないため、ボルツマン理論を超えた微視的理論での解析が望まれていた。本論文では、強い不純物ポテンシャル下でのフォノンドラッグによる熱電効果の線形応答理論が初めて構築され、それによりFeSb2の実験結果の定量的な理解に成功した。この成功は今後の熱電材料開発において重要な指針を与える。


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原論文は以下からご覧いただけます。
Effect of Phonon Drag on Seebeck Coefficient Based on Linear Response Theory: Application to FeSb2
Hiroyasu Matsuura, Hideaki Maebashi, Masao Ogata, and Hidetoshi Fukuyama, J. Phys. Soc. Jpn. 88, 074601.