JPSJ 2021年10月号の注目論文: 有機導体α-(BEDT-TTF)2I3の光誘起トポロジカル相転移の理論研究
近年のレーザー技術の著しい進展により,光誘起相転移の研究が理論と実験の両面で大きな展開を見せている.特に,Floquet理論を用いた光誘起トポロジカル相転移の理論研究は,グラフェンやカルコゲナイド化合物などを対象に,世界中の研究者を巻き込んで精力的に行われている.このような状況の中,本分野の新たな発展のために,理論サイドからの新奇な対象物質の提案や,興味深い物理現象の予言が期待されている.本論文は,Floquet理論を用いてバンド構造やチャーン数,ホール伝導度を計算することにより,楕円偏光レーザーを照射した有機化合物α-(BEDT-TTF)2I3において,トポロジカルに非自明な光誘起チャーン絶縁体相が発現することを明らかにしている.さらに,楕円偏光の振幅のx成分とy成分の平面に相図を構築することで,光誘起チャーン絶縁体相だけでなく,非トポロジカル絶縁体相や半金属相を含む豊かな相図が得られることを明らかにしている.これらの成果は,光誘起トポロジカル相転移研究の対象物質の範囲を大きく拡大するとともに,物質の電子状態を光で操作する研究の発展に大きく貢献するものである.
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Floquet Theory of Photoinduced Topological Phase Transitions in the Organic Salt α-(BEDT-TTF)2I3 Irradiated with Elliptically Polarized Light
Keisuke Kitayama, Yasuhiro Tanaka, Masao Ogata, and Masahito Mochizuki, J. Phys. Soc. Jpn., 90, 104705 (2021)
JPSJ 2021年10月号の注目論文: 空間的に離れた物質間に光が創り出す量子もつれ状態
空間的に離れた二つの系の光による量子もつれ生成・制御は、光誘起相転移の初期量子ダイナミクスの解明や量子情報通信技術の基盤確立などに向けての非常に基本的な理論的課題である。本研究では、光の量子効果により空間的に離れた物質系のフォノン間に量子もつれ状態ができる過程のダイナミクスを、数値計算を用いて示すことに成功した。量子もつれ生成機構が明らかになったことにより、光と物質が一体となって新しい物質相を形成する現象の理解が進むと考えられる。
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Two-step Dynamics of Photoinduced Phonon Entanglement Generation between Remote Electron-Phonon Systems
Kunio Ishida and Hiroaki Matsueda, J. Phys. Soc. Jpn. 90, 104714 (2021)