JPSJ 2021年12月号の注目論文: ツイスト積層グラフェンの電子構造設計へむけて ― 原子層の電界遮蔽効果
二枚のグラフェンを積層してできるツイスト積層グラフェンは超伝導や絶縁体化の発現で近年注目されている。こうした系はゲート電圧で電子密度を変えられるが、このゲート電場の各層での遮蔽の様子はあまりよくわかっていなかった。本研究は、2層グラフェンの結晶軸をわずかに(5度程度)ずらして積層したツイストグラフェン素子を用いた低温磁場中輸送現象測定により、電場の遮蔽効果を明らかにした。遮蔽長は、ABスタックグラフェンのものよりもわずかに長い可能性があり、膜面方向の波動関数の広がりの違いを表していると思われる。
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On Dielectric Screening in Twisted Double Bilayer Graphene
Fumiya Mukai, Kota Horii, Nazuna Hata, Ryoya Ebisuoka, Kenji Watanabe, Takashi Taniguchi, and Ryuta Yagi
J. Phys. Soc. Jpn. 90, 124702 (2021)
JPSJ 2021年12月号の注目論文: 合理的設計・高機能化に適したリン系ディラック電子材料の発見
ポストグラフェン材料として注目される黒リン由来の層状構造を持つMoP4の単結晶及び多結晶試料の高圧合成に成功した。多結晶試料において、低温で大きな正の磁気抵抗効果と負のゼーベック係数が観測され、高移動度の伝導電子を有する半金属的な性質が示された。こうした輸送特性と整合して、フェルミ準位近傍にMoのd軌道とリンのp軌道からなるディラック的バンド分散が存在することが、第一原理計算から明らかになった。本研究は、構造-機能相関に基づく戦略的トポロジカル物質の能動的な設計に適したディラック電子材料としてのリン系ジントル化合物の開拓や、黒リン系材料の高機能化に繋がることが期待される。
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High-Pressure Synthesis of a Massive and Non-Symmorphic Dirac Semimetal Candidate MoP4
Alex Hiro Mayo, Jon Alexander Richards, Hidefumi Takahashi, and Shintaro Ishiwata
J. Phys. Soc. Jpn. 90, 123704 (2021)
JPSJ 2021年12月号の注目論文: 光の非相反現象を用いた強磁場下の反強磁性秩序変数の観測
空間反転に対しても時間反転に対しても対称でない結晶を光が透過する際,光の進行方向を逆にすると光の吸収量が変わるという現象が発現しうる.この非相反な光学現象は方向二色性と呼ばれ,近年,空間反転および時間反転が破れたマルチフェロイック物質を対象として活発に研究がなされている.しかしながらこれまで報告された近赤外-可視光領域での方向二色性は,一部の例外を除き,その多くは大きさが1%程度またはそれ以下と小さなものであった.今回,空間および時間反転対称性の破れた反強磁性体Pb(TiO)Cu4(PO4)4の磁場誘起相において13%を越える顕著な方向二色性が発現することが明らかとなった.さらに,パルス磁場下における方向二色性の測定が,数十テスラという定常磁場では到達の難しい強磁場領域において反強磁性の秩序変数を検出することができる数少ない手法の1つとなり得ることが示された.
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Nonreciprocal Directional Dichroism in a Magnetic-Field-Induced Ferroelectric Phase of Pb(TiO)Cu4(PO4)4
Tsukasa Katsuyoshi, Kenta Kimura, Zhuo Yang, Yasuyuki Kato, Shojiro Kimura, Yukitoshi Motome, Yoshimitsu Kohama, and Tsuyoshi Kimura
J. Phys. Soc. Jpn. 90, 123701 (2021)