JPSJ 2022年2月号の注目論文:分子性導体におけるギャップの開いたディラック電子とスピン伝導
擬2次元の有機導体であるα-(BETS)2I3を念頭に、質量のある(エネルギーギャップがある)場合のディラック電子系における、スピンの関与した特異な輸送現象が明らかにされた。スピン軌道相互作用によってギャップが開いた場合、一般にスピンに依存したトポロジカルな量であるベリー曲率が生じることが分かった。このような場合にスピンホール伝導度や磁場中のスピン伝導度など、スピン流が関与した物理量においてベリー曲率の寄与が典型的に現れることが明らかになった。
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Anomalous Spin Transport Properties of Gapped Dirac Electrons with Tilting
Masao Ogata, Soshun Ozaki, and Hiroyasu Matsuura
J. Phys. Soc. Jpn. 91, 023708 (2022) .
JPSJ 2022年2月号の注目論文:戸田格子における非線形トポロジカル現象
戸田格子はソリトン解を持つ非線形格子模型である。これをSu-Schrieeffer-Heeger模型のように二量体化することにより、トポロジカル相を実現できる事が示された。これは非線形系におけるトポロジカル相である。また、戸田格子は可変キャパシタンス・ダイオードとコイルを用いた伝送線路で作成できる事が知られているが、今回の模型もコイルの値を交互に変化させる事(二量体化)で実現できる。伝送線路における電圧の伝搬を測定する事で非線形系におけるトポロジカル相転移やバルク・エッジ対応を観測できることが提案された。
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Topological Edge States and Bulk-edge Correspondence in Dimerized Toda Lattice
Motohiko Ezawa, J. Phys. Soc. Jpn. 91, 024703 (2022).
JPSJ 2022年2月号の注目論文:揺動散逸定理の量子破綻とそこから見つかった電流ゆらぎの新奇な性質
平衡状態における電流ゆらぎは伝導度と温度だけで決まる、という揺動散逸定理により、伝導度に比べて電流ゆらぎの研究は十分には成されてこなかったが、近年、この定理が量子効果で一般には破綻することが指摘された。本論文では、量子破綻が起こるときには電流ゆらぎが伝導度とは独立な物理量になることに着目し、電流ゆらぎの性質を詳しく調べられている。その結果、異方向を流れる電流同士の異時刻相関で与えられる非対角電流ゆらぎには、試料の一部分に局在しているような電子状態も非局在状態と同程度に寄与することを見いだされている。これは、同方向を流れる電流同士の異時刻相関で与えられる対角電流ゆらぎや伝導度にはない非対角電流ゆらぎに特有な性質で、非対角電流ゆらぎだけが不純物や結晶欠陥の存在にきわめて鈍感であることを意味する。これは応用上も有用であり、量子効果が著しい低温・強磁場において、非対角電流ゆらぎの測定から電子数密度を推定できるという新しい測定手段を与える。
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Robustness of Equilibrium Off-Diagonal Current Fluctuation against Localization of Electron States in Macroscopic Two-Dimensional Systems
Kentaro Kubo, Kenichi Asano, Akira Shimizu, J. Phys. Soc. Jpn. 91, 024004 (2022).