JPSJ注目論文

JPSJ 2022年8月号の注目論文:流れを利用した新たな細胞選別法の基礎研究

赤血球の希薄浮遊液を微小正方形管に流し、下流断面における赤血球の位置を計測することにより様々な流速における赤血球の断面内分布を求めた。流速が大きいと赤血球は管断面の対角線上の4点に集中することが観察された。この現象は、慣性に加え赤血球の変形性に起因して周囲の流体から揚力(主流に対し垂直方向の力)を受けるために生じたもので、ほぼ同サイズの剛体球粒子では断面各辺の中央付近の4点に集まるのと対照的である。また、血漿に浮遊する剛体球粒子の断面内分布より血漿のもつ弾性の存在が示され、これが赤血球挙動に影響を与える可能性が示唆された。

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Inertial Focusing of Red Blood Cells Suspended in Square Capillary Tube Flows
Saori Tanaka and Masako Sugihara-Seki, J. Phys. Soc. Jpn. 91, 083401 (2022).

JPSJ 2022年8月号の注目論文:一軸性圧力によって誘起される不均一な誘電状態のイメージング観察

強誘電体に一軸方向から圧力を加えると, その方向と格子の歪み量に応じて電気分極が誘起できる。さらに一軸性圧力を大きくすると格子欠陥が増大するため, 静水圧では到達不可能な大きな格子の歪みを局所的に集中させることができる。このような歪み集中を利用した物性研究はこれまでにも試みられてきたが, 試料毎に格子欠陥の分布が異なることが研究の発展を妨げてきた。本研究は, 量子常誘電体SrTiO3に一軸方向から圧力を加えて複屈折量の二次元状の分布像を取得することで, 局所的な格子の歪み量や強誘電状態の分布を観察することに成功した。

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Microscopic Observation of Ferroelectric and Structural Phase Transitions in SrTiO3 under Uniaxial Stress Using Birefringence Imaging Techniques
Hirotaka Manaka, Kouki Uetsubara, Shota Korogi, and Yoko Miura, J. Phys. Soc. Jpn. 91, 084704 (2022).

JPSJ 2022年8月号の注目論文:2電子原子アレイの高分解能分光とリドベルグ状態への1光子励起

高度な構造調整性をもつ光ピンセットアレイにトラップされた単一冷却中性原子(原子アレイ)とリドベルグ状態を用いた原子間相互作用の高度な制御性は、量子状態操作の重要な実現舞台を与え、量子シミュレーションや量子計算などの観点から近年注目を集めている。本論文ではアルカリ土類様原子であるイッテルビウム(Yb)原子を用いることで従来用いられてきたアルカリ原子における光ピンセットアレイ上での状態操作上の問題点を克服することができることを示した。まず、測定と原子の移動を組み合わせたフィードバック操作による無欠損なYb単一原子アレイの構築に成功している。さらに長寿命な準安定励起状態3P2に注目し、基底状態1S03P2状態間の高分解能分光、および3P2状態からリドベルグ状態への1光子励起に成功した。これらは中性原子による量子計算の性能向上につながる成果である。

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High-resolution Spectroscopy and Single-photon Rydberg Excitation of Reconfigurable Ytterbium Atom Tweezer Arrays Utilizing a Metastable State
Daichi Okuno, Yuma Nakamura, Toshi Kusano, Yosuke Takasu, Nobuyuki Takei, Hideki Konishi, Yoshiro Takahashi, J. Phys. Soc. Jpn. 91, 084301 (2022).



JPSJ 2022年8月号の注目論文:カゴメ格子上のスピン軌道結合した電子が生む多彩な磁気秩序

近年、カゴメ格子構造を持つ磁性体を舞台として、スピン軌道相互作用に由来したトポロジカル電子状態の研究が幅広く展開されている。カゴメ層状物質は組成に応じて強磁性や反強磁性120度構造などの多彩な磁気秩序を発現し、その性質は千差万別である。本論文は、これらの多彩な磁気秩序が、電子のスピン軌道結合がもたらす実効的なスピン間相互作用により生み出されることを示している。実現される秩序は、単層カゴメ格子上の電子充填率とスピン軌道相互作用に依存し、多彩な振る舞いを見せる。ここで得られた知見は、カゴメ層状物質において元素置換などにより磁気秩序を変化させ、トポロジカル電子状態をデザインする際の定性的な指導原理になると期待される。

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Magnetic Orderings from Spin-Orbit Coupled Electrons on Kagome Lattice
Jin Watanabe, Yasufumi Araki, Koji Kobayashi, Akihiro Ozawa, and Kentaro Nomura, J. Phys. Soc. Jpn. 91, 083702 (2022).