JPSJ 2022年11月号の注目論文:データ駆動型アプローチによる熱電物質の伝導度スペクトルの推定
本論文では、データ駆動型アプローチに基づき伝導度スペクトル(伝導度のエネルギー依存性)を推定する手法が提案されている。実験的に得られた電気伝導度とゼーベック係数の温度依存性から機械学習によって伝導度スペクトルと化学ポテンシャルの温度依存性が求められることや、得られた伝導度スペクトルから電子の寄与による熱伝導率や無次元性能指数ZTの上限を予測できることが示されている。本論文の成果により、大きな熱電輸送特性を示す物質における伝導度スペクトルを明らかにすることで、従来型の熱電理論との橋渡しになると期待される。
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Data-Driven Reconstruction of Spectral Conductivity and Chemical Potential Using Thermoelectric Transport Properties
Tomoki Hirosawa, Frank Schäfer, Hideaki Maebashi, Hiroyasu Matsuura, and Masao Ogata, J. Phys. Soc. Jpn. 91, 114603 (2022).
JPSJ 2022年11月号の注目論文:時間・空間反転対称性の破れを伴わないフェロアキシャル物性の開拓
物質の機能性と対称性は密接に関係している。とりわけ電子がもつ複数の内部自由度が絡み合う相関電子系においては、通常の磁性や誘電性とは質的に異なる機能性が創出される。その中でも本論文は、結晶が有する対称性の一つである鏡映対称性の破れを伴うフェロアキシャル秩序のもとで発現する種々の物性現象を議論している。特に電場方向に平行に生成されるスピン流は、従来のスピンホール効果とは異なる新しい量子伝導現象である。本成果により、フェロアキシャル秩序に由来する機能性開拓・物質探索のさらなる進展が期待される。
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Electric Ferro-Axial Moment as Nanometric Rotator and Source of Longitudinal Spin Current
Satoru Hayami, Rikuto Oiwa, and Hiroaki Kusunose, J. Phys. Soc. Jpn. 91, (2022) 113702.
JPSJ 2022年11月号の注目論文:核磁気共鳴測定で迫る金属マンガンの磁気構造
金属マンガン(α-Mn)は室温で安定な立方晶の単体金属であり,TN = 95 K以下で反強磁性秩序を示す.近年では圧力下で新たな磁気相が発見され,トポロジーや量子臨界現象などの観点からα-Mnは再び注目されている.しかしながら,α-Mnは結晶構造が複雑であり,常圧の反強磁性相でさえも磁気構造はいまだに同定されていない.本研究では反強磁性相の正体に迫るため,新たな手法で作製された純良な試料を用いて核磁気共鳴測定を行った.その結果,きわめて明瞭なスペクトルが得られ,磁気秩序状態の対称性が従来の提案よりも低い可能性があることが示された.
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Site Split of Antiferromagnetic α-Mn Revealed by 55Mn Nuclear Magnetic Resonance
Masahiro Manago, Gaku Motoyama, Shijo Nishigori, Kenji Fujiwara, Katsuki Kinjo, Shunsaku Kitagawa, Kenji Ishida, Kazuto Akiba, Shingo Araki, Tatsuo C. Kobayashi, Hisatomo Harima, J. Phys. Soc. Jpn. 91, 113701 (2022).