JPSJ 2023年5月号の注目論文:バルクな有機結晶で実現するv=1の量子ホール状態
高圧力下の有機ディラック電子系α-(BETS)2I3において、1 T 程度の磁場下・低温でν=1の量子ホール効果が発見された。ν=1の量子ホール状態は、ディラック点と呼ばれる電荷中性点で磁場によって現れるN=0のランダウ準位がゼーマン効果と電子相関効果により分裂することで実現する。1 T程度の磁場で観測できたことは、この系の易動度が極めて高いこと、電子間の相互作用が重要な役割を担っていることを示唆する。一般に、量子ホール効果は極低温・高磁場下で、主に2次元電子系において実現する現象であるが、今回の物質のようなバルクな結晶で量子ホール効果が実現する例は非常に希少である。この系は極めて高い易動度をもち、さらに電子相関が強い2次元電子層が弱く結合した多層構造をしていることから、多層(分数)量子ホール効果の物理に迫る成果として注目を集めている。
詳しい説明はこちらから。
原論文は以下からご覧いただけます。
Observations of ν = 1 Quantum Hall Effect and Inter-Band Effects of Magnetic Fields on Hall Conductivity in Organic Massless Dirac Fermion System α-(BETS)2I3 under Pressure
Kazuyuki Iwata, Akito Koshiba, Yoshitaka Kawasugi, Reizo Kato, Naoya Tajima, J. Phys. Soc. Jpn. 92, 053701 (2023).
JPSJ 2023年5月号の注目論文:角運動量 J=2のクーパー対が担う超伝導
角運動量が l=1である複数のp波原子軌道をスピンs=1/2の電子が占有するような状況に、スピン軌道相互作用が働けば、合成角運動量 j=l+s=3/2 によって特徴づけられる電子系が実現する。そのような金属が低温で超伝導を発現したとすると、超伝導を担うクーパー対は J=2や J=3という大きな合成角運動量を持つことになる。j=3/2の電子がクーパー対を作って凝縮した超伝導体に固有な物理現象とは一体何だろうか? その一つとしてスピン磁化率が考察されている。
詳しい説明はこちらから。
原論文は以下からご覧いただけます。
Spin Susceptibility of a J = 3/2 Superconductor
Dakyeong Kim, Takumi Sato, Shingo Kobayashi, and Yasuhiro Asano, J. Phys. Soc. Jpn. 92, 054703 (2023).
JPSJ 2023年5月号の注目論文:トポロジカル超伝導体におけるマヨラナ粒子を検出する新たな方法
トポロジカル超伝導体におけるマヨラナ粒子状態は量子計算への応用が期待され注目されているが、現状ではその存在の決定的な証拠が実験で得られていない。本研究では、非局所コンダクタンスに現れるアハロノフ-ボーム効果によって、マヨラナ粒子状態を検出する新しい方法が提案されている。これは従来の局所コンダクタンス測定と比べて、より信頼できるマヨラナ検出法となることが期待される。
詳しい説明はこちらから。
原論文は以下からご覧いただけます。
Enhanced 2π-periodic Aharonov-Bohm Effect as a Signature of Majorana Zero Modes Probed by Nonlocal Measurements
Masayuki Sugeta, Takeshi Mizushima, and Satoshi Fujimoto, J. Phys. Soc. Jpn. 92, 054701 (2023).