JPSJ 2024年3月号の注目論文:磁化がほぼ打ち消し合う反強磁性体でもスピン流が流れることをミクロに解明
温度勾配からスピン流を生成する代表的な方法であるスピンゼーベック効果の研究は、2008年の発見以来、多彩な磁性体において展開されている。反強磁性体は最も基本的な磁性体の1つであるにもかかわらず、そのスピンゼーベック効果に関する既存の理論は現象論的な側面が強く、微視的理解は十分深化していない。本研究では、反強磁性体のミクロなハミルトニアンを出発点として、スピン波理論と非平衡Green関数法に基づいた熱的トンネルスピン流の定量評価にはじめて成功し、その解析から、実験で観測されるスピンフロップ転移前後でのスピン流の符号反転、低温におけるスピン流の非単調な磁場依存性、スピン流と中性子散乱スペクトルの定量的関係、などについて統一的な解説と予言が導かれている。
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原論文は以下からご覧いただけます。
Microscopic Theory of Spin Seebeck Effect in Antiferromagnets
Keisuke Masuda and Masahiro Sato, J. Phys. Soc. Jpn. 93, 034702 (2024).
JPSJ 2024年3月号の注目論文:強磁性体と反強磁性体におけるカイラルフォノンのマグノンへの変換
カイラルフォノンは,結晶中の原子による微視的な回転運動に対応し,角運動量を持つ.先行研究でフォノンの持つ角運動量が電子のスピンや電荷へ変換され,スピン磁化や電流が誘起されることが示されている.本研究では,これを磁性体へ拡張し,強磁性体や反強磁性体におけるカイラルフォノンからマグノン励起への変換現象を断熱近似に基づいたモデル計算で調べている.その結果,カイラルフォノンによる幾何的な効果によってマグノン数が増えたり,減ったりすることを明らかになった.
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原論文は以下からご覧いただけます
Conversion of Chiral Phonons into Magnons in Ferromagnets and Antiferromagnets
Dapeng Yao and Shuichi Murakami, J. Phys. Soc. Jpn. 93, 034708 (2024).