JPSJ 2024年6月号の注目論文:構造の回転歪みと偽キラルな反強磁性が生み出す強トロイダル状態
強トロイダル状態は、空間反転対称性と時間反転対称性が同時に破れている特殊な物質状態であり、光の入射方向の反転により吸収が変わる方向二色性といった多彩な物理現象を引き起こす。それゆえ、強トロイダル状態を如何にして実現するかは興味ある問題である。今回、PbMn2Ni6Te3O18の反強磁性相において、強トロイダル状態の形成を示す方向二色性が観測された。この結果と対称性の議論から、結晶構造の回転歪みと、反平行スピン対をベースとした"偽キラル"な反強磁性の組み合わせが、強トロイダル状態を実現する新たな指針となることが示された。
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Ferrotoroidic State Induced by Structural Rotation and Falsely Chiral Antiferromagnetism in PbMn2Ni6Te3O18
Ryoya Nakamura, Ippo Aoki, and Kenta Kimura, J. Phys. Soc. Jpn. 93, 063703 (2024).
JPSJ 2024年6月号の注目論文:反強磁性が生み出す散逸のない異常ホール伝導
長い間、強磁性特有の現象だと思われてきた異常ホール効果は、最近になって反強磁性を主体とする物質でも観測されている。この現象にブレイクスルーをもたらしたMn3SnやNbMnPなどがこれに該当し、それらの磁気構造の反強磁性成分が強磁性と同じ磁気点群に属することが鍵となっている。その異常ホール効果の機構として波数空間のベリー曲率が散逸に依らない異常ホール伝導度を与える内因性の機構が有力視されていた。今回、NbMnPの純良単結晶の作製が可能となり、異常ホール効果の試料依存性を調べることにより、散逸に依らない異常ホール伝導度が確認された。本研究により反強磁性由来の異常ホール効果が内因性の機構で生じている実験的確証が得られたと言える。
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Intrinsic Anomalous Hall Effect Arising from Antiferromagnetism as Revealed by High-Quality NbMnP
Yuki Arai, Junichi Hayashi, Keiki Takeda, Hideki Tou, Hitoshi Sugawara, and Hisashi Kotegawa,
J. Phys. Soc. Jpn. 93, 063702 (2024).