楽しい物理実験室(物理教育委員会)

2022年度 自然の不思議―物理教室

2022年度物理教室
開催案内はこちら

(各講座の概要や、
お申込方法を掲載しております)

「自然の不思議-物理教室」は、様々な実験を通して楽しみながら物理現象を学ぶことができる、小学生高学年・中学生向けの体験型実験教室です。
毎回、専門の講師を招き、物理現象や実験を丁寧に解説いただきます。
国立科学博物館(東京・上野)の実験室にて、年に複数回開催しています。








2022年度の開催日程・講座名は次のとおりです。

第1回 7月2日(土) 「反磁性を利用して永久磁石を宙に浮かせよう!」
第2回 7月24日(日) 「重心のふしぎ」
第3回 8月7日(日) 「光で音楽を送ろう」
第4回 8月21日(日) 「偏光アートをつくろう」
第5回 8月27日(土) 「電気と磁気の力を塩水の流れで見よう」

ご参加ご希望の方は、国立科学博物館のWEBページ内イベントカレンダーをご覧ください。
※イベントカレンダー上で、物理教室が開催される日程をクリックされますと、物理教室の詳細情報・お申込方法がご覧いただけます。
お問合せ先:国立科学博物館 学習企画・調整課 TEL:03-5814-9888


教室の様子


第5回 8月27日(土)「電気と磁気の力を塩水の流れで見よう」

佐藤桂輔 先生(茨城工業高等専門学校)

 第5回は、佐藤先生による磁石を用いた実験でした。塩水は電気を通す(導電性がある)性質があります。しかし電気が流れている様子を観察することは簡単ではありません。今回は手回し発電機と磁石を使って電流の方向を制御し、それを"直接"観察しました。
 まずプラスティックのカップの内側面に円筒状の電極をアルミホイルで作成しました。次にカップ底面の中心に割りばしにアルミホイルを巻き付けた棒状電極を瞬間接着剤で貼り付けます。手回し発電機のケーブルに、直列に豆電球をつなぎ、豆電球のもう一方を棒状電極に、円筒状電極を発電機の残りのケーブルとつなぎます。手回し発電機程度の出力と豆電球の点灯(による判断)では、水道水は導電性がないことを確認しました。そして、カップ内の水に塩を加えて攪拌し、再度実験を行うと、豆電球が点灯するようになり、塩水に導電性があることを確認しました。
 次は、磁気の力がどんな影響を及ぼすか、の実験です。豆電球を外して手回し発電機と棒状電極、円筒電極を接続します。手回し発電機を回せば、塩水に電流が流れているはずです。ここでカップの下にドーナツ型のフェライト磁石を設置します。この状態で手回し発電機を回し、電流を流すと、電流にはローレンツ力がはたらき、円周方向に力を受けます。塩水のままでは何も見えませんが、黒胡椒の粉を浮かせると、粉が円周方向に動く様子が観測されました。手回し発電機の極性を変えたり、フェライト磁石の上下を変えたりして、粉の動きがどうなるかを観察し、ローレンツ力の方向と矛盾しないことを直接観察しました。
 この実験は電気と磁気の効果を可視化した非常に面白いもので小学生向けとした内容ですが、フェライト磁石の周囲の磁場分布や、黒胡椒の帯電の有無等、中学生や高校生の自由研究のテーマがたくさん出てくるような教室でした。

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第4回 8月21日(日)「偏光アートを作ろう」

七井靖 先生(防衛大学校機能材料工学科)

 第4回は、七井先生による偏光を利用した工作教室でした。自作した偏光ライトボックスの上で、セロテープで作った作品を観察しました。
最初に偏光の説明がありました。少し難しい説明の後、ノートPCの液晶パネルに使われて いることなどが紹介され、ノートPCの画面を、偏光板を通して観察したり、2枚の偏光板を重ねていろいろなものを観察したりしました。液晶ディスプレイに偏光板をかざすと見え方が変わります。一方プラズマディスプレイでは変化がないので、同じ外見のディスプレイでもいろいろな方式があることも紹介されました。透明なプラスティック板にセロテープを2枚、クロス状に貼り付け、2枚の偏光板で挟むようにして観察し、セロテープの重なった枚数によって色が変わることを体験しました。
 次に偏光ライトボックスを自作しました。半透明のプラスティックボックスの内側に、わざとしわを入れたアルミ箔を配置し、内側の壁の一つにLEDライトを設置します。LEDライトの光はアルミ箔で乱反射し、半透明のボックス上面に拡散光が得られます。その上に偏光板を貼り付け、偏光ライトボックスとします。そしてあらかじめ用意されたイラストをもとに、透明プラスティック板に黒マジックで書き写し、上から何枚ものセロテープを重ねて貼っていきました。これを偏光ライトボックスの上に置き、上からもう一枚の偏光板を通して観察しました。偏光板を回転させると万華鏡のように色が変化し、見事なアート作品が完成しました。
 偏光は、サングラスや液晶、3D眼鏡等、身近で実用化されている物理的性質の一つです。中身を理解するのは大変ですが、まずは現象を体験して興味を持ってもらえたらと思います。

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第3回 8月7日(日)「光で音楽を送ろう」

須田順子 先生(東京工科大学)

 第3回は、須田先生による電子工作の教室でした。ブレッドボードという、はんだ付けが不要な"基板"に抵抗や発光ダイオード(LED)、IC等を差し込んで電子回路をつくります。あらかじめ音楽の情報が書き込まれているメロディーICからの電気信号を光信号に変換し、それを太陽光パネルで受信してその先のスピーカーで聞いてみよう、という内容でした。
 最初にブレッドボードの説明(中身がどうなっているのか)があり、練習を兼ねてLEDと保護抵抗、電池ボックスの電源をつないでLEDを点灯させました。ブレッドボードの穴に金属線を差し込むコツをつかんでもらいました。
次にメロディーICをスピーカーで聞く回路を作りました。練習でコツをつかんでいたので、皆さんすぐに音楽を聴くことができました。電子回路の工作では、電源の配線を間違えてICを壊してしまうことが多いのですが、今回は皆さん丁寧に確認してから電池ボックスのスイッチをONにしており、壊れたメロディーICは皆無でした。
 さらにスピーカーの代わりにLEDと抵抗を接続し、音を発生させる代わりに光を発生させます。この光を、太陽電池パネルを用いて受信し、まずは直接スピーカーにつないでみました。非常に小さいですが聞こえた、という人と全く聞こえないという人がいました。そこで、トランジスタで増幅してスピーカーに接続すると、大きな音量で音楽を聴くことができました。LEDと太陽光パネルとの位置関係を変えると音量が変化し、光量が太陽光パネルの発電量に関係していることも確認できました。
 ブレッドボードを用いた電子回路工作は、理科教室の定番の一つですが、光通信のセットを作ってみる機会は少ないと思います。コロナ禍で実験時間が短い中での教室でしたが、時間があれば、LEDで発光させてLEDで受光して、という内容を含めることができるかもしれません。今回、須田先生の資料は大変な力作でした。スライドの一部も紹介しておきます。

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第2回 7月24日(日)「重心のふしぎ」

成見知恵 先生(駒場東邦中学校・高等学校)

 第2回は、成見先生による「重心」に関する教室でした。地球上で物体にはたらく重力、重心とは何か、そして、重心の簡単な求め方などの実演を交えたお話しから始まりました。つづいて、同じサイズの木の板を2つ組み合わせたものの重心を予想しました。さらに、そのままだと倒れてしまう状態にして、下に台座となる小さな木片を付けます。木片の位置を細かく調整することで、一番小さな(短い)状態を確認して、予想した重心の位置との関係を考えました。さらにワインボトルホルダーと同じ原理の鉛筆ホルダーを作りました。バランスをとるのに苦労した生徒が多かったようです。
 そしてメインの実験である「のりだすいた(乗り出す板)」。大きさの揃った木の板を重ねていきますが、下の板に対して上の板を長手方向にずらし、出来るだけ全体が長くなるように重ねていきます。まず最初は板を2枚使って実験しました。当たり前かもしれませんが、上の板の重心が、下の板の端に重なる付近が答えになります。さらに板を重ねていくのですが、重ねる順番を敢えて説明しないで実験させると、ほとんどの生徒(多分全員?)が3枚目を2枚目の上にのせようとして落としてしまいます。さらに上にのせてしまうと、先ほどの2枚目の板と合わせた重心の位置が、一番下の板の端から外側に離れた方にずれてしまうことに気付いてくれた生徒もいました。最後は一番全長が長くなった状態で、セロハンテープで仮固定し、そこに絵をかいて作品に仕上げました。
 今回の教室では上の板が落ちないぎりぎりの状態を追いかけました。落ちる瞬間やそれ以降の現象を考えるには高校や大学以降の勉強が必要になりますが、身近な現象の中にも物理の話題がたくさん含まれていることを体感した教室でした。

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第1回 7月2日(土)「反磁性を利用して永久磁石を宙に浮かせよう!」

車田浩道 先生(慶応義塾高等学校)

 コロナ禍で2年間開催を見送っていた物理教室を、参加人数を12名、実施時間を40分間と縮小し、感染対策をしたうえで再開しました。
 第1回は、この物理教室では何度か講師をお願いしている車田先生による磁気浮上の実験でした。「磁気浮上」は完全反磁性を示す超伝導体の上に永久磁石をのせてみることで観測可能で、インターネット上の動画サイトなどでも見ることができます。参加した小学生からも「超伝導」という言葉が出てくるほど一般的ですが、実際に体験した人は少ないのではないでしょうか。今回の実験は、完全反磁性よりははるかに小さい反磁性磁化率(しかし超伝導体ではない物質としては非常に大きな反磁性磁化率)をもつBi(ビスマス)を使って、Biの上に永久磁石を浮かせようという実験です。
 最初の実験は、板状のBiを2枚、間にストローで隙間を設けた状態にしたものを水平に設置します。その上部にフェライト磁石を参加生徒による自作ラボジャッキで、磁場が鉛直方向になるように配置します。Biプレート間の隙間に小さなネオジム磁石を挿入すると、重力による鉛直下向きの力と、フェライト磁石による上向きの力(そのように磁石を挿入します)に加えて、Biの反磁性による反発力がわずかにはたらきます。フェライト磁石を近づけた状態(ネオジム磁石は上側のBiプレートに貼りつく)からゆっくりとフェライト磁石を離していくと、徐々に上向きの力が弱くなり重力と釣り合う場所が現れます。Biが無くてもこのつり合いの位置を計算することは可能ですが、実際にそこでネオジム磁石を静止させることは困難です。ネオジム磁石を2枚のBiプレートで挟むことによって、反磁性による反発力を利用して、空中でネオジム磁石を静止させます。丁寧にフェライト磁石の位置を調整することで、参加生徒全員がネオジム磁石を宙に浮かせることに成功しました。
 次の実験はフェライト磁石による磁場を水平方向に配置したもので、左右に配置したフェライト磁石の隙間に、平行平板状のBiプレートを配置し、その間隙にネオジム磁石をおきます。左右のフェライト磁石を近づけていき、ネオジム磁石が宙に浮くように調整しました。この実験は、重力の方向とフェライト磁石の磁場の方向が直交しており、さらに地磁気の影響もあるため、難易度の高い実験となりましたが、何名かの参加者は見事に成功しました。今回の実験は、自宅で持ち帰ったキットを使って容易に再現実験が可能な内容なので、上手くいかなかった生徒も自宅で再チャレンジしてくれると思います。
 デジタルネイティブ世代の子供の多くは、アナログ的な調整の経験が少ないのですが、参加した生徒の皆さんは、丁寧に根気よく磁石の位置を調整していました。永久磁石のN極にもS極にもくっつく鉄があるように、N極からもS極からも反発する反磁性体があることを体験し、磁性体の新しい魅力を感じていただけたのではないかと思います。

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