2024年度 自然の不思議―物理教室
「自然の不思議-物理教室」は、様々な実験を通して楽しみながら物理現象を学ぶことができる、小学生高学年・中学生向けの体験型実験教室です。
毎回、専門の講師を招き、物理現象や実験を丁寧に解説いただきます。
国立科学博物館(東京・上野)の実験室にて、年に複数回開催しています。
2024年度の開催日程・講座名は次のとおりです。
第1回 6月15日(土) | 「光の科学」 千葉県立千葉高等学校 阿部 敬 先生 |
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第2回 6月23日(日) | 「紙の花が水面で開くのはなぜ?」 秀明大学 大山光晴 先生 |
第3回 7月21日(日) | 「地球外惑星着陸船のモデル機を作ろう」 早稲田大学高等学院 小川慎二郎 先生 |
第4回 7月28日(日) | 「電場(エレクトリックフィールド)・磁場(マグネティックフィールド)・を体感しよう!」 早稲田中学校・高等学校 今井章人 先生 |
第5回 8月3日(土) | 「音の不思議を体験しよう!」 筑波大学附属駒場高等学校 今和泉卓也 先生 |
第6回 8月24日(土) | 「光の実験と工作を楽しもう!」 市川学園高校 飯高匡展 先生 |
ご参加ご希望の方は、国立科学博物館のWEBページ内イベントカレンダーをご覧ください。
※イベントカレンダー上で、物理教室が開催される日程をクリックされますと、物理教室の詳細情報・お申込方法がご覧いただけます。
お問合せ先:国立科学博物館 学習企画・調整課 TEL:03-5814-9888
教室の様子
第1回 6月15日(土) 「光の科学」
阿部 敬 先生(千葉県立千葉高等学校)
第1回は、阿部先生による「光の科学」を紹介する教室でした。教室では4つのテーマについて簡単な実験道具を工作し、実験を通して光の科学を勉強しました。教室には、千葉県立千葉高校の高校生4名と大学生2名もサポーターとして参加し、参加者の工作の手伝いをしてくれました。
はじめのテーマは、ビー玉を通して外の風景を眺めるとどのように見えるか、でした。実験では塩ビの筒の先端に大きな透明なビー玉を付けて外の風景を眺めてもらいました。このようにして眺めると、ビー玉を付けず筒だけのときと比較して大変に広い範囲が見えます。これはビー玉による光の屈折によるものです。先生から、このような仕組みはどのようなところに利用されているかの質問があり、参加者からは防犯カメラなどに使われている「魚眼レンズ」との解答がありました。次のテーマは、なぜ私たちはモノを立体的に見ることができるか、でした。実験では、2枚の少し違う写真が右目と左目のそれぞれだけに見えるようにする装置を作りました。参加者は、このような簡単な仕組みで立体的に見えることにびっくりしていました。
3つ目のテーマは、光を色に分ける実験です。虹は何色に分かれているかの質問から始まりました。虹は7色とよく言われますが、国によって2色から8色とさまざまに表現されるようです。実験では、細い線が引かれたプラスチックシートを塩ビの筒の先端に貼り付け、蛍光灯を覗いてもらいました。参加者からは白色の蛍光灯が3色や5色などの色の帯になって見えるとの回答がありました。先生からは光を分けることで体温なども調べられるとのお話がありました。最後のテーマは光の反射についてです。半分に切られた消しゴムのおもちゃを鏡の上に置くと、鏡の反射でまるで切られていないように見えます。この消しゴムが中に浮いて見えるおもちゃを作りました。
教室では、参加者からさまざまな解答や質問があり、終始、和やかで楽しい1時間30分でした。
第2回 6月23日(日) 「水面で開く紙の花」
大山光晴 先生(秀明大学)
第2回は水をはったトレイに折り紙で作った花を浮かべ、それが開いていく様子を観察しながら、身の回りにある不思議なことを探し出し、その不思議なことがどうして起こっているのかを考え、それを確認する実験を企画して実際に実験してみる、という大人でも難しいテーマに取り組んでもらいました。
まず初めにワークシートが配布され、身の回りにある不思議なことを書き出してみました。そしてその中から一つ選んで、ワークシートの裏面に、その不思議なことがどうして起こっているのかを考え、書き出してみました。参加生徒の中には、そもそも不思議なことを見つけられない(思いつかない?何を書いていいのかわからない?)生徒もかなりいました。ワークシートを用いた学習はそこそこに、実験に移りました。
正方形の折り紙を三角形に折り、さらに2回、相似形になるように折り重ね、折り紙の中心を切らないように花弁が8枚あるような形に切り取ります。それを開いて花弁を内側に折り返したものを、トレイにはった水の上にそっと置きます。すると、ゆっくりと花弁が開いていきます。この"不思議な現象"を全員で共有し、どうして花が開いたのかを考え、追加の実験を自分で考えてみました。追加実験用に、いろいろな種類の紙が用意されており、参加生徒は、紙の厚みを変えてみたり、水のしみ込みやすさの異なる紙を複数で試したり、片面がコーティングされている紙の表裏を変えて実験を行ったり、大きさを変えてみたり、と非常にたくさんの実験を行いました。この実験の際にも別のワークシートが配布され、どのような追加の実験を行い、その結果がどうであったのか、を記録する練習もしました。追加実験を行っている中で、自然発生的に周囲の参加者とやっている内容を報告し合い、協働的な学習にもなっていました。
最後に、今日の教室で最初に配布されたワークシートが、もう一度配られました。未記入の新しいものです。そこで、最初に行った、身の回りの不思議なことを書き出して、それがどうして起きるのか、を書き出す作業をもう一度行いました。水面で開く紙の花の実験を経験することによって、複数の不思議なことをあげられるようになった生徒がかなりいたのが印象的でした。近年、高校では探究学習が盛んですが、今日の教室は探求の過程そのものであると感じました。自宅でも簡単に再現できる内容なので、繰り返して実験し、観察し、考える、という習慣をつけてもらうことが講師の先生の狙いではなかったかと思いました。
第3回 7月21日(日) 「地球外惑星着陸船のモデル機を作ろう」
小川 慎二郎先生(早稲田大学高等学院)
第3回は地球外惑星などを探査するために宇宙船を着陸させるには、どのような着陸装置が必要なのかを、2つの工作を行って実際に実験してみる講座でした。大人でも少し難しい工作に小学生・中学生に取り組んでもらいました。
最初の工作は、火星探査機の着陸の様子を図で示しながら、惑星の大気による抵抗を利用してパラシュートを使ってゆっくり着陸する方法を説明しました。パラシュートの効果を考える入り口として、お弁当のおかずなどを入れるアルミホイルの小さなカップを大小2通りと、このホイルカップが同じ形・大きさの薄い紙を挟んで重ねられているので、この紙皿も2通り用意して子供たちに配り、どのカップが他よりゆっくり落ちるのかを各自で実験させました。この実験の結果から、着陸船は軽い方がよく、同じ重さならパラシュートは大きい方がゆっくり落ちることがわかりました。そして、各自に、色紙と着陸船であるガチャのカプセル、宇宙飛行士としてゴムボールを配り工作に取り組ませました。
子供たちは、紙をさまざまな形に切ってパラシュートを作り、セロテープでカプセルに付けました。着陸予定場所となるコルクボードに上から落として、ボードにちゃんと落ちるか、カプセルが壊れないかを試し、最後に全体の重さを測定して記録しました。パラシュートとなる紙を、麦わら帽子の縁のようにカプセルの周りに付けるタイプや、カプセルに柱を1本立てて傘のようなものをつけるタイプなど、様々な工夫がみられました。
2つ目の工作は、パラシュートが使えないような大気の無い衛星に着陸する場合として、着陸のときに着陸船の周りの部分が変形して衝撃を和らげる仕組みとなっているテンセグリティ型着陸船について説明しました。そして、お手玉や非弾性ボール、中にビーズが入ったカプセルなどを机上に落として見せ、どのような場合にあまり弾まないかを考えさせました。ペットボトルをそのまま落とすと大きく跳ねて転がるけれど、お茶を飲んでボトルの中に空間を作ってから落とすと、お茶が着地する時にしぶきを上げる一方で、ボトル全体はあまり跳ねなくなることも示しました。その後、テンセグリティ型着陸船を6本のストローと輪ゴムで作りました。用意したストローを半分に切ってから両端に切り込みを入れ、この両端の切り込みに輪ゴムをひっかけたものを6本作りました。これらの6本をxyzの3方向に2本ずつ立体的に組み合わせると着陸船が完成します。早く作れた子が、苦労している子の手伝いをしてくれて、時間内にほとんどの子が完成させることができました。
最後に、着陸船のパラシュートの模様がモールス信号になっていることを説明して講座は終了となりました。多くの子供たちが興味深く思っている宇宙と直接結びついた内容であり、皆、たいへん満足感にあふれた顔つきで退室していきました。
第4回 7月28日(日)
「電場(エレクトリックフィールド)・磁場(マグネティックフィールド)を体感しよう!」
今井章人 先生(早稲田中学校・高等学校)
第4回は電磁気学の教室でした。電磁気学は高校の物理の授業でも最後に学習することが多い、少し難しい分野です。ボールの落下運動などと比較して、目には見えない電子の運動などによる現象を理解することが必要なので、"難しい"と思われがちのようですが、面白くまた役に立つ分野です。今日の教室では、目には見えない電場と磁場を体感し、少しでも身近に感じてもらうことを第一の目的としているように感じました。
まずはプラズマボールを使って空間の電場の様子を可視化します。厳密な説明を抜きにして、プラズマが走る方向に電場がある、と大半の生徒が自然に理解しているようでした。ボールの表面を触ったり、蛍光灯を近づけて点灯させたり、蛍光灯を持つ位置を変えてみたりと、様々の条件で実験を行い、人間も導体であることや、ボールの外側の空間にも電場が広がっていることを体感させました。
次にフライスティック(静電気発生装置)を用いて、小さく切ったティッシュペーパーを空中浮遊させる実験を行いました。ティッシュペーパーの大きさや切込みの数や形を様々に変化させ、帯電させたのちにスティックとの(静電)反発力を利用して浮き上がらせます。スティックを上手く動かして1分以上ティッシュペーパーを空中に漂わせる生徒もおり、大変盛り上がりました。
最後に銅線で長いコイルを作り、その中を永久磁石で挟んだ乾電池が電車のように移動する"コイル電車"を作成しました。木製丸棒に銅線をきれいに巻き付けてレールの代わりとなるコイルを作成します。このコイル作りはコツがあるのですが、今日の参加生徒は手先の器用な生徒が多く、皆さんきれいなコイルを作っていました。最後に磁石で挟んだ単4型乾電池を走らせて終了となりました。
物理の教員の立場からは理屈を説明したくなります。当然ですが参加生徒には伝わりません。今日の教室は詳細な理屈は抜きに、電場や磁場というものが空間には広がっていて、それが面白い現象と関係しているということを、実感してもらうよい教室でした。
今回の教室には講師の所属校から4名の高校生がサポート役として協力してくださいました。参加小中学生と年齢の近いお兄さんの、高校生の視点でのアドバイスは協働的な学びにもつながったのではないかと感じました。
第5回 8月3日(土)「音の不思議を体験しよう!」
今和泉卓也 先生(筑波大学附属駒場高等学校)
第5回は音に関する教室でした。音を通して様々の波の性質を体験してもらう内容でした。はじめに、マイクロフォンで自分の発した音をオシロスコープで観察しました。オシロスコープ上には様々の波形が表示されますが、形がひとつの正弦波に近い音をきれいな音、と呼んで、どんな音がきれいか、音の高低や大きさを変えると波形がどう変化するのかを観察して言葉で表現してみました。次に音叉や振動スピーカーを用いて、空気の振動が伝わることによって音が届くこと、振動させる板を大きくしたり、反響する箱を用いたりすることで大きな音を発生させることができることを学びました。
続いて、2人で弦巻ばねの両端をそれぞれ持ち、両端からいろいろな波を発生させてばねがどのように変化するか、を観察しました。ばねの方向に対して垂直に変位を与える"横波"的な波を与える生徒、ばねの端を前後に(ばねの方向に平行に)振動させて"縦波"的な波を発生させる生徒、振幅や振動数、2人の位相を変えながら、"重ね合わされた波"がどうなるのかを観察しました。どんな波を発生させたのか、全員に発表(紹介)してもらい、波の進行方向の確認や定在波の存在、最後に波の反射や透過に関して説明がありました。あまり専門用語は用いず、先入観のない生徒が現象の特徴をどう捉え、自分の言葉でどう説明するのか、に重点がおかれていました。
この教室では工作をすることが多く、今回は糸電話の糸をばねにしたばね電話を作製しました。紙コップの底面にゼムクリップを固定して、それをフックとしてばねでつなぎます。糸電話と同じように声を伝えることができます。また、ばねを弾くと、シューティングゲームの効果音のようなカッコいい音が発生し、さらにそれにエコーがかかりました。弦巻ばねで観察した反射が起きて、やまびこのような現象が起きていることが解説されました。
4つ目の実験として、エアコンや洗濯機の排水用ホースを用いて、気柱共鳴の実験を行いました。長さの異なるホースを振り回して楽器のように音を出します。サウンドホースとしておなじみの実験ですが、上手く音を出すにはコツがあります。特に長いホースでは苦労している生徒も多かったのですが、この教室では珍しく身体を使った実験で楽しんでいました。
最後にPCと外部スピーカー2台を用いて、デジタル音源の周波数や位相を変化させて、音を重ね合わせる実験を行いました。位相を反転させた波を合成して音が消えることや、対向した2台のスピーカー間で定在波をつくり、聴診器で場所によって音の大きさが変わることを確認する等、非常に内容が豊富な教室でした。
第6回 8月24日(土)「光の実験と工作を楽しもう!!」
飯高匡展 先生(市川学園高校)
第6回は第1回に続いて光に関する教室でした。冒頭のお話では、錯視の一つである残効や蓄光、燐光の実演と解説がありました。その後、RGB三色のLED光源装置を用いて、色を混ぜる実験を行いました。R(赤)とG(緑)、B(青)の2色ないし3色を混ぜた時の色がどうなるのかは、予め知識や経験のある参加者が多かったのですが、その先に物体(障害物)を置いた時に影がどうなるのかという実験は初めての参加者が多く、実験前に予想をして、その後興味深く実験を行っていました。
次に今回の教室のメインイベントである万華鏡の作成を行いました。厚紙性の筒の中に丁度納まるように、紙ミラーとして販売されている厚紙の片面が鏡面になったものを使って三角柱を作り、円筒内部に収めます。これだけでも覗くと三角柱内部を反射した模様を楽しむことが可能ですが、より万華鏡らしくするために、円筒内部に勘合するサイズの円柱型アクリルケースに洗濯のりと水を混合した液体にビーズ等を分散させたものを用意しました。これで、粘性のある洗濯のりの中をビーズがゆっくりと落下していくようすを万華鏡として楽しむことができます。いろいろなサイズ、形、色のビーズやスパンコールを用意して、参加者は自分の好みで仕上げていました。実際に覗いてみてから、スパンコールを足すもの、逆にたくさん入れすぎて減らすものなど、やり直しができるので気楽に作成を楽しんでいました。
最後に、大きな水槽に水を張り、その中に開栓前のジュースの瓶を沈め、水槽の横から観察してもらいました。水の中では瓶の厚みがしっかりと観察されることを確認し、解説していただきました。
今日の教室は、光の反射と屈折の実験ということが出来ますが、冒頭に紹介された残効は人間の視覚のメカニズムに関連したものです。その違いの説明はもちろんなかった(大変難しいので)のですが、大人にも興味深い内容でした。