2023年度 世田谷区中学生講座(新・才能の芽を育てる体験学習:サイエンス・ ドリーム)
世田谷区教育委員会主催、日本物理学会協賛の「世田谷区中学生講座(新・才能の芽を育てる体験学習:サイエンス・ドリーム)」では世田谷区立中学校在学の中学生及び世田谷区内在住の中学生を対象に、物理や科学に対する驚きや楽しさを体感してもらうことを目的として、普段の授業では体験できない実験や施設の見学などの講座を行っております。
今年度は1日で3テーマの講座を同時開催いたしました。いずれのテーマも会場としている電気通信大学の大学1年生が授業で使用する実験設備をそのまま使用し、実験内容のみ中学生向けにアレンジしたものです。今年度も定員を大きく超える数の申し込みがあり、抽選で各12名を対象として実施しました。
お問合せ先 : 世田谷区教育委員会事務局 地域学校連携課
TEL : 03-5432-2723
新・才能の芽を育てる体験学習「サイエンス・ドリーム」
会場 日時 定員 |
国立大学法人 電気通信大学 7月30日(日)13時30分~15時30分 3テーマ各12名、計36名 |
---|
「物はぶつかるとどうなるの?」(当日参加者数:12名)
大学の実験授業では、「エア・トラックを用いた力学実験」という課題で、エア・ホッケーと同じ原理で、大学の授業では滑走体の速度の変化を計測して空気抵抗やわずかに残った摩擦係数等を見積もります。この装置を用いて、本講座では運動量の保存を検証する実験を行いました。運動量という概念は中学生ではまだないため、最初はそこには触れず、ビリヤードの模型の話から同じ質量の滑走体を用意して、一方を静止させて、そこにもう一方をぶつけたらどうなるか、の実験を行いました。滑走体の速さは、滑走体に付けた遮光板が赤外線検出器を遮る時間を計測する装置を用いて、速さ=遮光板の長さ÷検出器を遮る時間、で計算しました。原理は簡単ですが、遮光板の長さはcm単位で、時間はms(ミリ秒)で与えられ、それをm/s単位で計算する作業は大変でした。しかし、単位の重要さが伝わったのではないかと思います。
装置の構成上、衝突の直前・直後の速さの計測は困難で、その結果、衝突した後の滑走体は静止するのに、質量と速さの積は保存されない、という結果になります。しかしその差は、計測する地点を衝突する地点に近づけるほど小さくなることがわかります。衝突しないでも速さが遅くなっていくことから、空気抵抗が無視できないこと、これを考慮すると運動量が保存される、ということを解説しました。中学生にどこまで伝わったのか不安ですが、講座終了後には、なぜ保存されないのかをもう一度質問してくる生徒(つまり、伝わっていなかった)や、摩擦係数の求め方を聞いてくる生徒がいたりして、生徒の興味は引き出せたと思います。
「この光は何色?」 (参加者数:11名、欠席1名)
11名参加者に対して、水素の放電管が発している光の波長を、分光計を使って求める実験を行いました。はじめに、お菓子の箱で作っておいた簡易分光計を回覧しました。天井の蛍光灯をのぞいてみえるような分光された光の波長を、実験して求めていきます。回転台にのったコリメータと望遠鏡、そして中心におかれた透過型回折格子からなる分光計を使います。次に、望遠鏡は使わずに回折格子を通して水素の放電管を目でのぞきました。目の位置を回転方向にずらしていくと、分光された青と赤の輝線を目視で確認できることをたしかめました。そしていよいよ、望遠鏡を用いて回折の角度を測定していきます。はじめてみるであろう360°までの回転計の目盛の読み取りに苦労しながら、回折角をワークシートに記入しました。さらに、配布したサイン関数の図から、回折角のサインに相当する係数Aの値を読み取りました。このAと、用いた回折格子の間隔(1/600) mm をかけることにより、波長を得ます。1 mmより6桁小さい値の計算は難しかったですが、赤660 nmなどの波長をえることができました。
「閉じ込められた音の正体」 (参加者数:10名、欠席2名)
10名の参加者に対して、円環を利用したクントの実験から空気の音速を測定しました。はじめに、音は空気の波であり、波は重ね合わせで強め合うことも弱め合うこともできることを示す演示実験を行いました。そこではPCにつないだ2つのスピーカーの音が同位相では大きく、逆位相では小さくなることを示しました。次に参加者が実験装置を操作し、円環に音を閉じ込める実験を行いました。実験は円環につないだスピーカーの周波数を調整することで、円環の円周と音の波長が整数倍の条件で音の強め合いによる閉じ込めが起こり、そのときにコルク粉が激しく振動することを観察するものです。実験結果を音が閉じ込められたときの周波数と円周の長さから計算する波長を使って、空気の音速を求めました。求められた音速はおよそ340 m/sとなり、音速として知られる数値と一致することが確認できました。