日本物理学会誌

第63巻第9号

cover-08-09.jpg表紙から
K中間子と核子間の強い引力のため, K中間子を含む原子核(K原子核)は核物理の常識を越える高密度核となることが予言された.最も基本的なK-pp二核子系では,K-中間子は2コの陽子を 強く束縛し,水素分子と見まがう超ミニ "フェムト分子" を形成する(左上下).この構造を司っているのは2コの陽子間を回遊しているK-中間子である(右上のダイヤグラム).これは中性子発見直後に模索され, 湯川中間子論によって超克されたHeitler-London-Heisenbergの共有結合モデルの再来と言えよう.仮想的な中間子が通常の核力を媒 介しているのに対して,ここでは,実のボゾン粒子であるK中間子がはるかに強い "超強核力" を作り出している.これを敷衍すると,K中間子を多数含む原子核は重力の助けなしに凝縮するK中間子凝縮体(右下)を作り出すと期待される.(詳細は本号 に掲載されている山崎敏光氏,赤石義紀氏の「話題」欄を参照のこと.)  


巻頭言    
  IPAPと物理と応用物理           青柳克信 669

交 流    
  データ共有という理念                   海老沢研 670

解 説    
  局在プラズモンを用いた近接場ラマンイメージング:可視光を使って
ナノを見る
                      河田 聡,齊藤結花,井上康志 678

実験技術   
  高い位置分解能を持った2次元中性子検出器の開発       宇野彰二 687

最近の研究から
  非平衡定常系のボルツマン因子           小松輝久,中川尚子 694
  ブレーン衝突宇宙シナリオはインフレーションに取って代わるか?  水野俊太郎,小山和哉 698
  共振器に閉じ込めた光を利用する超高感度分光:光吸収・磁気光学効果・
光ポンピング
                  寺嵜 亨,間嶋拓也,江頭和宏,近藤 保 702

話 題    
  新しい高密度核凝集力--K中間子の共有結合がつくる超強核力の世界  山崎敏光,赤石義紀 707

JPSJの最近の注目論文から Vol. 77 (2008) No. 6より         髙山 一 711

平成19年度科学研究費補助金(基盤研究等)審査結果報告   初田哲男,山中 卓 714

シリーズ「"ポスドク" 問題」
  医学物理士への道:米国における医学物理教育プログラム       黒河千恵 716

追 悼    
  ローレンツ博士を偲ぶ                       相澤洋二 719
  好奇心に満ちた生涯をおくられた伏見康治先生            小沼通二 720
  野上耀三先生を偲んで                       江尻宏泰 721
  戸塚洋二先生を偲ぶ                        梶田隆章 722

新著紹介 723
 The NMR Probe of High-Tc Materials:石 田 憲 二 〈京大院理〉
 熱力学の基礎:小 嶋  泉 〈京大数理解析研〉  
 宇宙はどこまで明らかになったのか-太陽系の誕生から第二の地球探し,ブラックホールシャドウ,最果て銀河まで-:井 岡 邦 仁 〈KEK素核研〉 
 人類の住む宇宙: 石 岡 俊 也 〈神奈川大〉 
 The Spin Structure of the Proton: 宮 地 義 之 〈東工大理工〉 

編集後記  
  岡田 晋