日本物理学会誌

第65巻第5号

cover-10-05.jpg表紙から
重水と3メチルピリジンを混合すると室温付近で一様な溶液と なるが,ここに親水性の陽イオンと疎水性の陰イオンからなる塩であるテトラフェニルホウ酸ナトリウム(表紙写真の白抜きの化学式)を加えると様々な現象が 見られる.表紙の上の3枚並んだ写真は,ある組成の試料を光学顕微鏡で見た時の温度変化の様子である.323 Kでは全体的に一様だったものが313 Kに冷やすと視野全面に球状パターンが現れ,温度を下げるに従って球の大きさと密度が増大する.313 Kにおける拡大写真が真ん中の2枚で,右側の偏光顕微鏡写真では「マルタ十字」のパターンが見られる.このことから,313 K以下ではタマネギ状の構造になっていることが分かる.下の5枚の写真は違う組成の溶液を試験管に入れ,温度変化の様子を調べた結果である.低温では無色 透明だった溶液が青色になり,温度上昇に従って緑から黄色,赤へと変化して行く様子が見て取れる.これらの現象は塩が界面活性剤のような役割を果たして, メゾスケールの構造が形成されたと考えることができる.詳細は本号に掲載されている瀬戸秀紀氏らの「最近の研究から」の記事を参照のこと.


口絵    
 
今月号の記事から 313

巻頭言
  JPSJ編集委員長として  川畑有郷 315

解 説 
   近藤効果の系譜-重い電子系と量子ドット-
       上田和夫 316
   巨大磁気抵抗効果(GMR)からトンネル磁気抵抗効果(TMR)へ
       前川禎通,家田淳一 324

実験技術 
 1,800 K高耐熱性ハイブリッド型長寿命炭素フォイルの開発
       菅井 勲,武田泰弘 331 

最近の研究から
  原子核衝突に現れる非アーベリアンゲージ場のプラズマ不安定性  奈良 寧 340
   磁性体中のスピンの量子ネマティック状態  桃井 勉 345
   塩によって誘起されるナノ構造  瀬戸秀紀,貞包浩一朗 349 

JPSJの最近の注目論文から Vol. 79 (2010) No. 2より
 髙山 一 353 

シリーズ「物理教育は今」
 第5回ジュニアセッションの報告  北本俊二,並木雅俊 356  

シリーズ「"ポスドク" 問題」
 素粒子物理学から経済物理学へ  相馬 亘 358 

歴史の小径
 
 占領軍による日本の原子核研究の調査(I) -米国国立公文書館などの保存文書より  政池 明 362  

談話室
 
 Belleグループによる体験型サイエンスキャンプの活動実績  片岡佐知子,樋口岳雄 364
   世界天文年2009--実り多かった活動と未来への展望  海部宣男 366  

新著紹介 369
 
宇宙137億年解読; コンピューターで探る歴史と進化 : 長 澤 倫 康 〈神奈川大理〉
  ビジュアルアプローチ; 力学 : 髙 橋 俊 樹 〈群馬大工〉  .
  Robert Oppenheimer; A Life : 小 林 澈 郎
  ポアンカレ予想; 世紀の謎を掛けた数学者,解き明かした数学者 / ポアンカレ予想を解いた数学者 : 樋 口 三 郎 〈龍谷大理工〉
  QUANTUM COMPUTING; From Linear Algebra to Physical Realizations : 西 野 哲 朗 〈電通大〉  


編集後記
 
 固武 慶