日本物理学会誌

第67巻 第11号

cover-12-11.jpg■表紙の説明
陽子と中性子のスピン構造を研究する手法の1つは,電子ビームと核子標的の偏極深非弾性散乱である.
i)中央の写真はハンブルクのドイツ電子シンクロトロン研究所(DESY)の加速・貯蔵リングHERAのHERMES実験.HERMESはHERa MEasurement of Spinの略である.27.6 GeVの電子ビームは右上から左下の方向へ進む.青く見えるのが電磁石,左下にあるのは荷電粒子の位置検出や粒子識別のための測定器.ii)中央の環は,周長6.3 kmのDESY-HERAを周回する電子ビームのスピンの方向を示している.iii)左上の写真は,DESY-HERAの電子ビームリングに組み込む直前のHERMES実験の偏極気体水素標的装置.偏極源には原子ビーム法を用いている.周回する電子ビームに対して内部標的として用い,この気体水素の陽子の深非弾性散乱が測定された.中央に電子ビーム用の真空ダクトが見える.気体標的を用いる利点は,純粋な水素や重水素の偏極標的が得られることである.iv)右下の図は陽子の内部を示す模式図で,フェルミ粒子であるクォーク(矢印)とボース粒子であるグルーオン(らせん)の多体系として陽子のスピン構造が研究されている.茶色で示す軌道角運動量が陽子のスピンに寄与する可能性もある.詳細は本号に掲載されている柴田利明氏の「解説」記事を参照のこと.

■口絵
今月号の記事から 735

■巻頭言
日本物理学会の会計担当理事として 播磨 尚朝 737

■解 説
陽子と中性子のスピン構造 柴田 利明 738
QCDによる核力研究とその展開 青木 慎也,初田 哲男,石井 理修,根村 英克 745

■最近の研究から
流体力学的同期現象:鞭毛や繊毛の集団運動の理解に向けて 内田 就也 754
ついにとらえたガンマ線バーストの偏光  村上 敏夫,米徳 大輔,郡司 修一,三原 建弘 758
幾何学的フラストレーションとスピン格子結合から生じる新しいスピングラス挙動 品岡 寛,富田 裕介,求 幸年 762
希ガス固体におけるイオン衝撃脱離 立花 隆行,平山 孝人 767

■JPSJの最近の注目論文から
7月の編集委員会より 安藤 恒也 772

■シリーズ「物理教育は今」
第7回全国物理コンテスト・第1チャレンジ2011報告 江尻 有郷 774

■ラ・トッカータ
現代物理科学の素晴らしい贈り物を学生そして市民に届ける活動を 八木 浩輔 777

■談話室
Asia Pacific Center for Theoretical Physics(APCTP)の現状と今後 多田 司 779

■新著紹介 
宇宙のダークエネルギー;「未知なる力」の謎を解く : 辻川 信二 781
「場の量子論」第1巻;量子電磁力学 : 菅原 祐二 781
「場の量子論」第2巻;素粒子の相互作用 : 菅原 祐二 781

■編集後記 鈴木 陽子 786