■表紙の説明
量子スピン液体の候補物質として注目される有機磁性体κ-(BEDT-TTF)₂ Cu₂ (CN)₃では，向かい合う2つのBEDT-TTF分子が強く二量化している（図中の黄色と灰色の楕円の集合体が一分子である）．1つの二量体上にスピン1/ 2が存在し，それらが三角格子状に配列しているために（図中の黄色の実線），スピン間の交換相互作用に競合が生じる．これにより，極低温まで磁気秩序化が妨げられて，量子スピン液体と呼ばれる特異な磁気状態が現れる．本物質では，量子スピン液体の性質を特徴付ける磁気励起構造が，測定する物理量によって大きく異なるという問題があった．しかし，詳細な磁気トルク，および磁気熱量効果の測定と解析を通じて，その矛盾を説明することに成功した．詳細は本号に掲載されている磯野貴之氏，宇治進也氏の「最近の研究から」記事を参照のこと．

■巻頭言
領域委員長として　　平野哲文 ...... 451

■シリーズ「人工知能と物理学」
人工知能研究の過去・現在・未来――人工知能から人口知能へ　　寺野隆雄 ...... 454

■解　説
インフレーション宇宙の解明へ向けて――これまでと今後の宇宙観測　　高橋　智 ...... 463

■最近の研究から
がん抑制タンパク質p53はどのように標的DNA配列探索問題を解いているのか？
　鎌形清人，伊藤優志，Dwiky Rendra Graha Subekti ...... 472
謎の天体Fast Radio Burstは若い中性子星が起源か？
　樫山和己 ...... 476
有機スピン液体物質における量子臨界現象とスピン-格子デカップリング現象の発見
　磯野貴之，宇治進也 ...... 483

■JPSJの最近の注目論文から
最近出版された特集企画論文から　　上田和夫 ...... 489

■学会報告
第74回年次大会（2019年）　シンポジウムの報告　　領域委員会 ...... 491

■追　悼
高塚龍之先生を偲んで　　巽　敏隆，武藤　巧 ...... 503
町田茂先生を偲んで　　　坂東昌子 ...... 504
大澤文夫さんを偲んで　　石渡信一，難波啓一，柳田敏雄 ...... 505

■新著紹介 ...... 506
物性物理のための場の理論・グリーン関数；量子多体系をどう解くか？：山地洋平
今度こそわかる重力理論：糸山浩司