日本物理学会誌

第75巻 第9号

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■表紙の説明
気温-60度を下回る南極点の5月下旬,数か月前に地平線の下に消えた太陽の面影は跡形もなく,6月末の極夜の折り返し地点に向けて地上の暗闇は濃さを日に日に増していく.その一方で,極夜の深まりとは対照的に視線を上げると空には驚くほどに色彩豊かな光景が広がり始める.表紙に写るのはアムンゼン・スコット基地から望む,南極点の望遠鏡群.右に重なって写っているのが,宇宙背景放射観測のSouth Pole TelescopeとBICEP,少し離れて左に見えるのがIceCube Neutrino Observatoryである.南極点の氷床深さ2 kmの地点に,約5,000台の高性能チェレンコフ光検出器モジュールを埋設することで1 km3の検出器体積を実現したIceCubeは,世界最大のニュートリノ望遠鏡である.IceCubeによる高エネルギーニュートリノ観測はいわゆる「マルチメッセンジャー天文学」の鍵であり,検出器には常に安定した運用が求められる.地球で最も苛酷とも言われる環境下で,一年間にわたりこのIceCube検出器の運用と保守点検を担当するのが2名のウィンターオーバーである.詳細は本号に掲載されている牧野友耶氏の「ラ・トッカータ」記事を参照のこと.


■巻頭言
日本物理学会の国際連携とオンライン化に思うこと   中 暢子 ...... 547

■解 説
複合原子層科学を支えるファンデルワールス接合技術  増渕 覚,町田友樹 ...... 550

■最近の研究から
ミュー粒子稀崩壊現象の探索で迫る素粒子の標準理論の先の世界  大谷 航 ...... 559
強い相互作用の状態方程式――原子核衝突の視点から       門内晶彦 ...... 565
マヨラナ束縛状態を示唆するゼロエネルギー状態の観測      町田 理,花栗哲郎 ...... 570

■物理教育は今
国際物理オリンピック過去問シリーズを開始します ...... 576
考える実験試験――国際物理オリンピック2006の実験問題  長谷川修司 ...... 576

■JPSJの最近の注目論文から
5月の編集委員会より  宮下精二 ...... 580

■歴史の小径
運動の第2法則はいつから運動方程式となったか?――19世紀英国の物理教科書にみる力学概念の変遷
塚本浩司 ...... 584

■ラ・トッカータ
南極点の研究を支えるウィンターオーバー  牧野友耶 ...... 587
ゼミ本シリーズ:細胞の物理生物学     高須昌子,森河良太,宮川 毅 ...... 590

■学界ニュース
第110回日本学士院賞:川合眞紀氏